自称アート・リポーターこと、よろコンです。
※ 2020/4/5時点、東京は新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大を防ぐため、外出自粛の状況にあります。今週末も多くの美術館が臨時閉館しています。今回も過去に訪問した展覧会について、レポートしたいと思います。
(本ブログでは既に完了した展覧会も含め、好きな展覧会をレポートしていきます)
今回は、昨年(2019年)11月4日に訪問した
オランジュリー美術館コレクション
ルノワールとパリに恋した12人の画家たち @ 横浜・横浜美術館
のレポートです。
2019年度、もっとも楽しみにしていた美術展の一つですので、お読みいただけますと幸いです。
【目次】
※ 以下の記述は展覧会の解説、図録、パンフ、その他WEB上の資料を参照の上、記述しております。また、絵画の写真は購入した展覧会図録を撮影しています。
1. 展覧会概要
(1) どんな展覧会か
オランジュリー美術館はパリ・セーヌ川沿い、チュイルリー公園にある美術館です。
チュイルリー公園を抜けるとルーブル、セーヌ川の対岸にはオルセーがあり、いずれも徒歩で行ける範囲です。ルーブル・オルセーと比較するとこじんまりとしていますがコレクションは大変素晴らしいです。むしろ、広すぎず、モネ、ルノワールをはじめとする印象派からセザンヌ、ピカソ、マティス、モディリアーニ、ドラン、ユトリロ等々の名品をまとめて見ることができる大好きな美術館の一つです。モネの睡蓮の大作を展示した部屋はあまりにも有名です。
ちなみにオランジュリーの名前の由来はチュイルリー宮殿のオレンジ温室だったから。モネの大作・睡蓮を修めるため美術館に整備されたとのこと。そんな、成り立ちも面白いですね。
こちらの美術館に収蔵されているのは「ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム コレクション」。ポール・ギヨームについては、またのちほど。
オランジュリー美術館が改修のため、21年ぶりに所蔵する絵画の半数近くが日本に来る大変貴重な展覧会になりました。
(2) 開催概要
・期間:2019/9/21(土) - 2020/1/13(月)
・会場:横浜美術館(横浜)
・チケット:一般 1700円、大学生・高校生 1200円、中学 700円
・作品数:69点+参考資料
・写真撮影:NGでした
・Webサイト:
横浜美術館開館30周年記念 オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち | 開催中の展覧会・予告 | 展覧会 | 横浜美術館
(美術館・外観)
(3) パンフレット
(表面)
(中・左面)
(中・右面)
(裏面)
(4) 行くきっかけ
「日経おとなのOFF」1月号の2019年展覧会特集で展覧会を知りました。先述のとおりパリでもいちばん好きな美術館の一つ。もう、これは行くしかない!ということで、とにかく展覧会の開催まで、待ち遠しかったです。
2. 展覧会の中へ
(1) 訪問日・混雑状況
訪問日:2019/11/4(月・振替休日) 晴れ 10:40頃訪問。この日は、11/2(土)にラグビーワールドカップ決勝を見た奥さまがそのまま横浜に滞在していたので、車で迎えに行くのに合わせて見てきました。横浜美術館には駐車場(有料)もあります。
鑑賞時間:約90分
混雑状況:混雑していました。特にチケット売り場は並んでいました。事前にネットで前売を購入していたので、会場には待たずに入れました。(混む美術展は事前にネットで購入していくのがおススメです)
では美術館に入ります。
美術館ロビーにあったパネルを一周。
(2) 展覧会の構成
今回、画家ごとに作品がまとめられていました。
順番は以下の通り。
(1) アルフレッド・シスレー(1839-1899)
(2) クロード・モネ(1840-1926)
(3) ポール・セザンヌ(1839-1906)
(4) アンリ・マティス(1869-1954)
(5) アンリ・ルソー(1844-1910)
(6) パブロ・ピカソ(1881-1973)
(7) オーギュスト・ルノワール(1841-1919)
(8) アメディオ・モディリアーニ1884-1920)
(9) アンドレ・ドラン(1880-1954)
(10) マリー・ローランサン(1883-1956)
(11) キース・ヴァン・ドンゲン1877-1968)
(12) モーリス・ユトリロ(1883-1955)
(13) シャイム・スーティン(1893-1943)
(目録の館内図)
それでは、作品を見て行きましょう。
(3) 気になる作品
オランジュリーのコレクションを作り上げたポール・ギヨーム(1891-1934)。
(ポール・ギヨームの写真)
もともとは自動車修理工場の従業員でしたが、あるときタイヤの取引に使われるゴムの積荷の中からアフリカの彫刻を発見。これに大変な興味を持ったギヨームはアフリカ美術のコレクター・画商となり、当時のパリのアフリカ芸術ブームをけん引する一人となります。やがて、モンマルトルに移り住み、そこで詩人ギヨーム・アポリネールと出会います。この出会いが、ギヨームとパリの画家たちをつなぐきっかけとなり、アポリネールのアドバイスを受けながら、ギヨームのコレクションは成長していきます。
ところが、ギヨームは42歳の若さで亡くなってしまいます。そして、このコレクションを引き継いだのが妻のジュリエット・ラカーズ、通称ドメニカ。
(左がドメニカ、真ん中はポール・ギヨーム、右は元フランス首相のアルベール・サロー)
こちら、地位と財産を守るために夫、愛人を操り、数々のスキャンダルを巻き起こしたかなりのお方で、あだ名は「雌カマキリ」。ギヨームの死後、有名な建築家ジャン・ヴァルテルと再婚。よってコレクション名も「ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨームコレクション」になりました。
悪女として名高いドメニカですが、ドメニカの意見があったからこそ、より質の高いコレクションになったとも。稀代の画商、有名建築家を夫に持った彼女はいろいろな意味で見る「眼」があったということでしょうね。
いろいろな画家が描いた夫妻の肖像画です。
ポール・ギヨームから
(アメディオ・モディリアーニ「新しき水先案内人ポール・ギヨームの肖像」1915年)
ギヨームはまだ無名のモディリアーニのためモンマルトルの「洗濯船」にアトリエを借りて支援します。やがて仲たがいをしてしまいますが、その後もモディリアーニの作品は購入していたようです。
(アンドレ・ドラン「ポール・ギヨームの肖像」1919)
ドランもギヨームと長年契約をしてた画家で、本展でも多数のドランの作品が展示されていました。
(キース・ヴァン・ドンゲン「ポール・ギヨームの肖像」1930頃)
キース・ヴァン・ドンゲンはオランダ生まれの画家で1912年からモンパルナスに居住します。胸の赤い線はレジオン・ド・ヌール勲章の赤いリボンとのことで、画家のサインが同じ高さにあることから視線がリボンにいくように仕掛けられているとか。なかなかの自己顕示欲ですね。
さて、続いては妻のドメニカ。
(アンドレ・ドラン「大きな帽子を被るポール・ギヨーム夫人の肖像」1928-1929)
なかなか目力のある顔立ち。きれいですが、やり手な感じがします。この絵はとてもモデルの特徴を捉えた絵とのこと。この絵に本性が表れているとしたら、みなさん、どう感じられますか?
(マリー・ローランサン「ポール・ギヨーム夫人の肖像」1924-1928)
マリー・ローランサンが描く肖像画はパリでも人気があったとのこと。ドメニカは名声と富の象徴としてローランサンに肖像画を依頼したような。ドランの絵と違い、かなり毒々しさがなくなっています。
さて、それでは、それ以外の作品も。
(アルフレッド・シスレー「モンビュイソンからルヴシエンヌへの道」1875)
シスレーらしい落ち着いた、空がきれいな作品です。
(クロード・モネ「アルジャントゥイユ」1875)
アルジャントゥイユはパリから北西に約10km。セーヌ川右岸の町で鉄道が通ったことで印象派の画家も多く訪れたそうです。水面に写る舟。きらきらと光が反射しているかのようで美しい作品です。
続いてセザンヌ。
(ポール・セザンヌ「セザンヌ夫人の肖像」1890頃)
(ポール・セザンヌ「わらひもを巻いた壺、砂糖壺、りんご」1890-1893)
塗り残しのある肖像画、机との位置関係が崩れた静物画。セザンヌらしいと感じる絵でした。この静物画、もうキュビズムです。
(アンリ・マティス「ヴァイオリンを持つ女」1921-1922頃)
青い壁に赤い床。白と緑の服とそれぞれの色彩が際立つ作品。
(アンリ・ルソー「人形を持った子ども」1892年)
天才ルソーの描く子どもはどう見てもおじさん?!髭の剃り残し?!人形もかわいくない?!
こちら、2014年六本木ヒルズ森アーツセンターギャラリーで開催されたこども展でも展示されていました。そもそもこども展はオランジュリー美術館で2009-2010年に開催された展覧会がもとになっているとのこと。この絵を、また日本で見るとは、縁があります。
(パブロ・ピカソ「白い帽子の女」1921)
ポール・ギヨームはキュビズムに深い理解を示し、多くの作品を購入ましたが、ドメニカはあまりキュビズムが好きではなかったようで、ピカソのキュビズム的な作品は大半を売ってしまったようです。
そして、いよいよルノワールの部屋へ。
(オーギュスト・ルノワール「ピアノを弾く少女たち」1892頃)
オルセーに同様の構図で背景も描きこまれた絵があります。こちらの絵は油彩によるスケッチのようで晩年まで画家のアトリエにあったとのこと。ただ、細部まで描きこまれていない背景が逆に少女たちにスポットライトを与えた効果となり、二人の和やかな雰囲気がより伝わってくるようです。大変好きな作品です。
(オーギュスト・ルノワール「ピアノを弾くイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロイ」1897-1898頃)
同じような構図ですが、こちらは具体的なモデルを描いた作品。背景にドガの競馬、バレリーナの絵が。
(オーギュスト・ルノワール「桟敷席の花束」1878-1880頃)
コートールド美術館展では桟敷席を描いた作品がありましたが、こちらはそこに置かれた花束。これだけを描くということで、なんだかそこに隠されたドラマがありそうです。
(オーギュスト・ルノワール「花束」1900年頃)
同じく花束の絵。こちらは赤が多く、とても華やかな感じがします。
さて、ここでポール・ギヨームの資料コーナー。部屋を再現したミニチュアがあり、撮影可能でした。こんな感じです。
本当に部屋に来たように感じませんか?面白い企画でした。
それでは続けて作品に。ドランです。
(アンドレ・ドラン「座る画家の姪」1931)
こちらの絵を初めてオランジュリー美術館で見て、オランジュリーの中でも特に好きな作品になりました。何気ない姿に何かを思う、または何も思っていない、そんな微妙で繊細な気持ちが表現されているように思います。日本で見られるとは感激です。
(アンドレ・ドラン「黒い背景のバラ」1932)
本展ではルノワール以上に多くの作品がきたドラン。フォーヴの画家でしたが後に古典主義に回帰します。黒を背景にバラを際立たせる。とても鮮明な一枚でした。
(マリー・ローランサン「マドモアゼル・シャネルの肖像」1923)
モデルはファッション・デザイナーの"あの"ココ・シャネル。ローランサンとは同じ年生まれとか。シャネルはこの絵を気に入らなかったようで受け取りを拒否します。そのときのローランサンの言葉
「シャネルは有能だけれど、オーヴェルニュの田舎娘よ。あんな田舎娘に折れてやろうとは思わないわ」
女性同士の戦いは怖いですね・・・
次はユトリロ。
(モーリス・ユトリロ「クリニャンクールの教会」1913-1915)
(モーリス・ユトリロ「サン=ピエール教会」1914)
「白の時代」のユトリロ。どんよりとした空の下、白い建物。モンマルトルの雰囲気が伝わってきます。
(シャイム・スーティン「聖歌隊の少年」1927-1928頃)
最後はスーティンです。揺らめく絵は力強く、激しく炎のよう。
スーティンの作品はアメリカのコレクター・バーンズが大量に購入しているようです。現在、バーンズ・コレクションには多数のスーティン作品が所蔵されているとか。いち早くスーティンを見出したのはポール・ギヨームだったようです。
展覧会はここまで。出口を抜けてミュージアムショップへ。
(4) ミュージアムショップ
今回も、迷わずに図録を購入しました。
このほかに絵ハガキも購入。図録購入者の先着順でルノアールの絵ハガキが1枚プレゼントに。こ午前中に行っていたので、これもゲット。たまには早く行ってみるもんですね。
3. さいごに
今回の展覧会は印象派もありますが、フォーヴ、エコール・ド・パリの画家たち等、幅広い作品が集まっていたと思います。やっぱり、オランジュリー美術館は好きだなぁ、あらためてパリに思いを馳せる展覧会だったと思います。
なお、本展覧会は巡回展はありません。
今回のレポートは以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
また、次のレポートもよろしくお願いいたします。
※ ご意見、ご感想、大歓迎です。是非コメントかメール(yorocon46@gmail.com)まで。ツィッターは@yorocon46です。