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【展覧会】ブダペスト ヨーロッパとハンガリーの美術400年@乃木坂・国立新美術館のレポート(2020/2/23訪問)

自称アート・リポーターこと、よろコンです。

 

※ 2020/4/16時点、重大事態宣言により東京は新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大を防ぐため、外出自粛の状況にあります。5/6まで多くの美術館が臨時閉館となっています。今回も過去に訪問した展覧会について、レポートします。

(本ブログでは既に完了した展覧会も含め、好きな展覧会をレポートしていきます)

 

今回は、今年(2020年)2月23日(日)に訪問した

 

[日本・ハンガリー外交関係開設150周年記念]

ブダペスト国立西洋美術館 & ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵

ブダペスト ヨーロッパとハンガリーの美術400年 @ 乃木坂・国立新美術館

 

です。

 

美術館への休館要請が出る前、最後に行った展覧会。この翌週から相次いで休館に。

ハンガリー美術?あまり見る機会はないですが、なかなか素晴らしい作品が集まってきました。最後までお読みいただけますと幸いです。

 

【目次】

 

※ 以下の記述は展覧会の解説、図録、パンフ、その他WEB上の資料を参照の上、記述しております。また、絵画の写真は購入した展覧会図録を撮影しています。

 

1. 展覧会概要

(1) どんな展覧会か

ブダペスト国立西洋美術館とハンガリー・ナショナル・ギャラリーはハンガリーの首都・ブダペストにドナウ川をはさんでそれぞれ建っています。


 

川の西側・ブダ地区はブダ王宮に位置するのがハンガリー・ナショナル・ギャラリー。

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川の東側・ペスト地区の英雄広場そばにあるのがブダペスト国立西洋美術館。

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(ブダペストはブダとペストに分かれていて、あわせてブダペストというとは知りませんでした)

 

ブダペスト国立西洋美術館は1906年にハンガリーを含むヨーロッパ美術を包括的に収蔵するために開館。ハプスブルグ帝国~オーストリア=ハンガリー二重帝国に至るまで、ハンガリー王国最大の大地主・貴族エステルハージ家のコレクションがベースになっているとのこと。エステルハージ家はあの音楽家・ハイドンを楽長に迎えるくらいの名家ですので、コレクションも素晴らしい。

その後、1957年にハンガリー美術専門の機関として開設されたのがハンガリー・ナショナル・ギャラリー。

2012年、再び、2館は1つの組織として統合され、ブダペスト国立西洋美術館は古代、中世~18世紀末までのヨーロッパ・ハンガリーを中心とした美術品を収蔵、ハンガリー・ナショナル・ギャラリーの方は19世紀以降のハンガリーを中心とした世界各国の美術品を展示・収蔵しているとのことです。

 

本展は昨年度、数多く開催された日本・オーストリア外交150周年の展覧会同様に日本・ハンガリー(オーストリア=ハンガリー二重帝国)の外交150周年を記念して「ドナウの真珠」と称えられるブダペストの珠玉の名品が集結する、そんな展覧会になっていました。

 

(2) 開催概要

 ・期間:2019/12/4(水) - 2020/3/16(月) ※ 新型コロナの影響で途中終了

 ・会場:国立新美術館(乃木坂・六本木)

 ・チケット:一般 1700円、大学生 1100円、高校生 700円

 ・作品数:130点

 ・写真撮影:NGでした 

 ・Webサイト:

(専用サイト)

ブダペスト国立西洋美術館&ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵 ブダペスト ― ヨーロッパとハンガリーの美術400年[日本・ハンガリー外交関係開設150周年記念]

※ 後述しますが、会場風景がアップされています。出展作品も確認できます。是非、見てみてください。

 

(国立新美術館のページ)

日本・ハンガリー外交関係開設150周年記念 ブダペスト国立西洋美術館 & ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵 ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年|企画展|展覧会|国立新美術館 THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO

 

(青山霊園側から美術館入口までの坂を上ります)
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(美術館の入り口前には吉岡徳仁さん作「ガラスの茶室-光庵」が来年2021/5/10(月)まで設置されています。2011年ヴェネチア・ビエンナーレ出展作)

 

(3) パンフレット

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(表面)


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(中・左面)

 

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(中・右面)


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(裏面)

 

(4) 行くきっかけ

チラシミュージアムでパンフレットの紫のドレスを着た女性の絵の鮮やかな色、自然の風景の中でひときわドレスアップされた姿のチョッとした違和感がとても気になり、実際に見にいこうと思いました。そのほかにもクラーナハ、エル・グレコ、モネやルノアールの作品もあるようなので、見に行って損はないかなぁという感じでした。

 

2. 展覧会の中へ

(1) 訪問日・混雑状況

訪問日:2019/2/23(日) 晴れ 15:40頃訪問。

鑑賞時間:約100分

混雑状況:人はいますが、混雑はしていませんでした。作品数もそれなりにありましたので、ゆっくり鑑賞してきました。

 

では美術館に入ります。

 

(2) 展覧会の構成

美術館が所有するルネッサンス以降のヨーロッパ絵画・彫刻のコレクションからハンガリー美術へと流れていきます。

 

I ルネッサンスから18世紀まで

  I-1. ドイツとネーデルラントの絵画

  I-2. イタリア絵画

      【聖母子】

      【聖書の主題】

      【ヴェネツィア共和国の絵画】

  I-3. 黄金時代のオランダ絵画

  I-4. スペイン絵画-黄金時代からゴヤまで

  I-5. ネーデルラントとイタリアの静物画

  I-6. 17-18世紀のヨーロッパの都市と風景

  I-7. 17-18世紀のハンガリー王国の絵画芸術

  I-8. 彫刻

 

II 19世紀・20世紀初頭

  II-1. ビーダー・マイヤー

  II-2. レアリスムー風景画と肖像画

  II-3. 戸外制作の絵画

  II-4. 自然主義

  II-5. 世紀末ー神話、寓意、象徴主義

  II-6. ポスト印象派

  II-7. 20世紀初頭の美術ー表現主義、構成主義、アール・デコ

 

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(目録の館内図)

 

それでは、作品を見て行きましょう。

 

(3) 気になる作品

本展覧会の会場の展示風景は以下のリンクで参照できます。作品を見ることもできます。是非、参照してみてください

会場風景|ブダペスト ― ヨーロッパとハンガリーの美術400年

 

  では、最初のルネッサンス以降のヨーロッパ絵画から。

会場に入って直ぐに現れるのはこの作品たち。

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(ルカス・クラーナハ(父)「不釣り合いなカップル 老人と若い女」1522)

 

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(ルカス・クラーナハ(父)「不釣り合いなカップル 老女と若い男」1520-1522頃)

 

  いきなりこの絵が並んでいます。

  若い女性に抱きつく老人、その老人の財布に手をやる女性。もう一方は、若い男に金を握らせる老女、冷ややかな目で肩に手を回す男。どちらも、戒めを込めた絵なのですが、今も昔も変わらぬ人の性(さが)を感じてしまいます。でも、老女と若い男の絵は、あまり見ることがない珍しい作品です。 

 

続いてはイタリア絵画から

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(ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「聖母子と聖パウロ」1540頃)

ティツィアーノの優しくも美しい聖母の姿に惹かれます。書物と剣は聖パウロであることを示していますが、古代ローマの兵士の格好であるのは絵の依頼主からの注文ではないかとのこと。キリストの持つリンゴは原罪、サンゴの首飾りは病気などからの護身を意味するようです。

 

次はスペイン絵画から。

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(エル・グレコ(本名ドメニコス・テオトコプーロス)「聖小ヤコブ(男性の頭部の習作)」1600頃)

素早い筆致で描かれたこの絵は下絵を描かず、直接、キャンバスに筆で書き始めているとのこと。49.5cm×42.5cmと大きな絵ではありませんが存在感があります。

 

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(フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス「カバリェーロ侯ホセ・アントニオの肖像」1807年)

ハンガリーはハプスブルク家つながりでスペインの絵画も充実しているようです。人気の肖像画家・ゴヤの作品。本作の侯爵は啓蒙主義の敵を公言し、陰謀好きで節操がない人物と人々から見られていたよう。ゴヤも好きな人物ではなかったが、肖像画を描かないと言える立場になかったようです。華やかな衣装に身を包むその顔は傲慢で少し嫌味な感じがしませんか?ちなみに侯爵の妻も評判が悪く、ゴヤの絵も「ぱっとしない容貌や内面の卑しさ」を隠さずに表現されているとのこと。こちらも見てみたい。

 

  今度は17~18世紀のハンガリー絵画から
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(シュミッデイ・ダーニエル「女男爵ハッレル・エルジェーベトの肖像」1755-1756頃)

画家はウィーンの美術アカデミーで学んだあと、ポジョニ(現スロヴァキア・ブラチスラヴァ)の女子修道院で素描の教師として働いていていました。この作品は卒業生をモデルに女子修道院のために描かれた肖像画の連作の一枚。女性の持つ絵筆やパレットは学生の頃、絵への才能と関心を持っていたからとか。

なお、ハンガリーの画家の名前は日本と同じ姓・名の順です。


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(フェリーチェ・スキアヴォーニ「お茶を入れる召使い」19世紀中頃)

こちらはイタリア。「ヴェネツィアのラファエロ」と称された画家は主に祭壇画や聖人の絵を描いていたとか。

 

この作品が展示されていたコーナーは「ビーダー・マイアー」。「ビーダー」=「従順な」、「マイアー」=「(ドイツのありきたりな姓)」。「とりたてて知的な活動に従事するわけでもない、まともで難のない従順な市民の好みをほのめかしている。」とは図録の解説から。ずいぶん辛辣な言い様ですが、ナポレオン戦争後、ヨーロッパ各地の革命が始まるまでの間、政治色を避けた穏やかな絵が市民権を得ていったそうです。

 

ところで、この、女性がお茶を注ぐ光景。窓からの光、地球儀・・・

なんだか、こちらの絵を思い出しませんか?

 

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(フェルメール「天文学者」1668 ルーブル美術館所蔵 ※2013年撮影。本展には出品されていません)

この学者の休憩中にお茶を入れているのかなぁ、と想像したら、ちょっと面白くないですか?(個人的な妄想です)

 

  さて、だいぶ脱線しましたので、本展の作品に。

続きましては
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(ムンカーチ・ミハーイ「本を読む女性」1880年代初頭)

ハンガリーを代表する画家のひとり。ムンカーチ・ミハーイは初期の頃、ハンガリーの主題に基づく農村や田舎の風俗を描いていたのですが、庇護者であったド・マルシェ男爵の若き未亡人セシル・パピエと1874年に結婚。パリに移ると上流社会の面々が集まるパーティや舞踏会に顔を出し、作風も買い手の要求に合わせて大画面に華々しい大衆的な主題を描くようになったとか。ここまでの話だけだと、あまり共感が持てなさそうですが・・・

1870年パリのサロンで金賞を受賞したということからも、絵の実力は高かったのだと思います。

 

そして、そのムンカーチと仲が良かったのが

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(ムンカーチ・ミハーイ「フランツ・リストの肖像」1886)

ハンガリー出身の大作曲家、ピアノの超人リスト。リストはムンカーチのために「ハンガリー狂詩曲第16番」(それほど有名ではない曲ですが)を作曲したほど。そしてこの肖像画が完成した数か月後にリストはこの世を去り、図らずもこれがリスト最後の肖像画となりました。

 

   続きましても、ハンガリーのアイコン的画家の作品。


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(シニェイ・メルシェ・パール「紫のドレスの婦人」1874)

 

まず、鮮やかな紫のドレスに目を奪われます。そして、そのドレスを身にまとった美しい女性。シニェイ・メルシェの奥様とか。黄色や白の花咲く野原に木陰。いずれも明るく鮮やかな色で美しい!のですが、野原の木陰に紫のドレスの女性?!なんだか不自然な取り合わせにも思えます。

こちらの作品、紫・緑・黄・白と補色を成す色の取り合わせで鮮やかさを演出。風景は戸外制作を目指し、構図は肖像画の伝統を踏まえているとのこと。さらに同時代の女性をフォーカスするのは当時の流行。新旧の様々な要素を総合して描かれているのです。

ところが、実際は戸外ではなくアトリエで描かれたとのこと。当時、批評家に評価が分かれ批判的な意見も。でも、一般の人からは愛された一枚とのことで、今では「ハンガリーのモナ・リザ」と呼ばれるほどに。良い絵です。

 

そして、もう一点。

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(シニェイ・メルシェ・パール「ヒバリ」1882)

こちらも明るく鮮やかな色が際立つ作品。透き通るような青い空。画面右上には小さなヒバリ。それを囲うように流れる雲。画面右下の若い女性がヒバリを見上げます。本当にきれいな色で、美しい絵です。が、よくよく考えると野原に裸の女性が寝そべってヒバリを見上げる?!ちょっと、不思議な光景。なぜ、裸。

 

シニェイ・メルシェは歴史主義から距離を置き、「現実の出来事の瞬時の印象を想起させるような、明るい陽光を感じさせる色彩を用いて何気ない状況を描くことを好んだ(図録より)」画家でした。ただ、この裸の女性は当時のブダペストでは大スキャンダルを起こしたようです。

 

  なお、図録に掲載されているシニェイ・メルシェのこちらの作品
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(シニェイ・メルシェ・パール「5月のピクニック」1873 ※図録から。本展での展示はありません)

「ハンガリー絵画に青空を見出した人」(図録から)

ハンガリー絵画に最も大きな影響を与えた画家で純粋な色のハーモニーをハンガリー絵画にもたらした人。この作品はその記念すべき一歩となるような作品とのことで、ご紹介まで。

シニェイ・メルシェ・パール。とても面白い画家だと思いました。また、是非、作品を見てみたいです。

 

  だいぶ、長くなりましたので、ここからは少し駆け足で。

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(ロツ・カーロイ「春-リッピヒ・イロナの肖像」1894)

色は抑え目ですが、白の基調に手に持つ花の赤がアクセント


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(フェレンツィ・カーロイ「小川 II」1907)

河原の石や草は点描にも見えます。脱いだ帽子と上着がのどか


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(チョーク・イシュトヴァーン「孤児」1961)

思い詰めているのか、少し疲れ気味の孤児の表情と窓から差し込む青い光。ランプの灯も印象的。


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(ジョール・ジョゼフ・ルフェーブル「オンディーヌ」1881年)

アングルの「泉」へのオマージュ。

 

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(チョントヴァーリ・コストカ・ティヴァダル「アテネの新月の夜、馬車での散策」1904)

新月なのに三日月?夜なのに白く光る壁。夜明け?微妙な馬の脚、人の顔・・・

そうです。彼こそはハンガリーのアンリ・ルソー?!

神から自分は世界で最も偉大な画家になるとのお告げを受けて画家になったとは自伝から。ハンガリーの天才はカルト的人気者だそうです。


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(リップル=ローナイ・ヨージェフ「赤ワインを飲む私の父とピアチェク伯父さん」1907)

ハンガリーのナビ。


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(ボルトニク・シャーンドル「6人の人物のコンポジション」1918)
ハンガリーのアヴァンギャルド。

 

さて、後半は駆け足でしたが展覧会はここまで。

出口を抜けてミュージアムショップへ。

 

(4) ミュージアムショップ

紫のドレスの婦人が表紙の図録を購入しました。 

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このほかに絵ハガキも購入です。

 

3. さいごに

今回の展覧会は他にもヨーロッパの名品、モネ、ルノワール、ドニの作品(各一点ずつ)もあるのですが、ハンガリー絵画のコレクションが秀逸で、見るべきものがありました。個人的にはシニェイ・メルシェ・パールが良かったですが、そのほかにも多数の素敵な作品が集まっていました。それぞれの国の美術館が持つ、それぞれの国の美術のコレクションはやはり力のある作品が多くて目を見張ります。

それにしても、ブダペスト。行ってみたい。

 

なお、本展覧会は巡回展はありません。

 

  今回のレポートは以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

また、次のレポートもよろしくお願いいたします。

 

※ ご意見、ご感想、大歓迎です。是非コメントかメール(yorocon46@gmail.com)まで。ツィッターは@yorocon46です。

 

(六本木ヒルズで咲いていたチューリップ。この日は風が強かった)

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