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【展覧会】「ハマスホイとデンマーク絵画」展@上野・東京都美術館のレポート(2020/2/1 鑑賞)

自称アート・リポーターこと、よろコンです。

 

※ 2020/4/29時点、重大事態宣言により東京は新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大を防ぐため、外出自粛の状況にあります。5/6まで多くの美術館が臨時閉館となっています。今回も過去に訪問した展覧会について、レポートします。

(本ブログでは既に完了した展覧会も含め、好きな展覧会をレポートしていきます)

 

今回は、今年(2020年)2月1日(土)に訪問した

 

「ハマスホイとデンマーク絵画」@東京都美術館

 

 です。

 

18:00から人数限定で鑑賞できるナイト・ミュージアムに行ってきました。

ハマスホイ。確か、以前は「ハンマースホイ」と書かれていたような・・・

2月の冬の夜。デンマークから来た"心地よい"作品との夕べ。

最後までお読みいただけますと幸いです。

 

【目次】

 

※ 以下の記述は展覧会の解説、図録、パンフ、その他WEB上の資料やBS日テレ「ぶらぶら美術・博物館」等を参照の上、記述しております。また、絵画の写真は購入した展覧会図録を撮影しています。

 

1. 展覧会概要

(1) どんな展覧会か

ヴィルヘルム・ハマスホイ(Vilhelm Hammershøi)は1864年、デンマークの首都・コペンハーゲンに生まれます。(~1916年)

「室内画の画家」として知られ、灰色を基調とした少ない色数で描かれたその作品は、まさに"静謐"という言葉がふさわしい、静かで穏やかな空気に包まれます。そして、近代化の波の中、変わりゆくコペンハーゲンで変わらないものへの郷愁と愛情を込めて描き続けます。

本展覧会は、40点近くのハマスホイの作品に焦点を当てるとともに、19世紀前半の「黄金期」から、19世紀後半、20世紀初頭へと移り変わりゆくデンマーク絵画を日本で初めて紹介する展覧会となっています。

2008年に国立西洋美術館で開催された展覧会から10年以上の時を経て、再び東京にハマスホイがやってきます。

 

(2) 開催概要

 ・期間:2020/1/21(火) - 2020/3/26(木) ※ 新型コロナの影響で途中終了

 ・会場:東京都美術館(上野)

 ・チケット:一般 1600円、大学生・専門学校生 1300円、高校生 800円、65歳以上1000円

 ・作品数:86点(ハマスホイの作品は約40点)

 ・写真撮影:NGでした 

 ・Webサイト:

(専用サイト)

artexhibition.jp

(東京都美術館のページ)

www.tobikan.jp

(美術館の会場入り口のパネル)

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(3) パンフレット

(表面)

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この絵はヴィルヘルム・ハマスホイ「背を向けた若い女性のいる室内」1903-1904 油彩/カンヴァス 60.5×50.5cm

左のパンチボウルはロイヤル コペンハーゲン。少し割れているため蓋が合わず右側に少し隙間が。このパンチボウルと女性の持つ銀のトレイも展示されています。

 

(中・左面)
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(中・右面) 

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(裏面)
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(4) 行くきっかけ

チラシミュージアムを見て知りました。2008年の西洋美の展覧会を見に行っていて、その絵に惹かれるものを感じ、今回の展覧会も行くことにしました。

余談ですが、2008年の展覧会では「ハンマースホイ」と表記されていました。英語読み(?)での表記だと思いますが、それに馴染んでいたので「ハマスホイ」の表記は最初、違和感がありました。でも、こちらの方がより本来の言語に近い発音とのこと。これからはこちらに慣れないとですね。

 

2. 展覧会の中へ

(1) 訪問日・混雑状況

訪問日:2019/2/1(日) 晴れ 18:00過ぎ訪問。

鑑賞時間:約120分

混雑状況:人数限定のナイト・ミュージアムの特別チケットを購入して鑑賞しました。開始時間ピッタリで入ったので、人数限定なのに最初の方は、少し混雑していました(^^;)

こういう時は少し時間をずらして見に行くか、入ったら、順番に最初からではなく、人がいない途中の絵から見た方が良いですね。次回の参考に。

閉館が20:30でしたので、結構、何回も会場内を行ったり来たりして、ゆっくりたっぷり見ることができました。

 

それでは美術館に入ります。

 

(2) 展覧会の構成

19世紀から20世紀初頭のデンマーク絵画の流れを追って、最後、ハマスホイの部屋に入っていくように構成されています。

 

1. 日常礼賛-デンマーク絵画の黄金期

2. スケーイン派と北欧の光

3. 19世紀末のデンマーク絵画-国際化と室内画の隆盛

4. ヴィルヘルム・ハマスホイー首都の静寂の中

 

 

f:id:YoroCon:20200202203723j:image (目録の館内図)

 

それでは、作品を見ていきましょう。

 

(3) 気になる作品

  まずは「1. 日常礼賛~」の作品から。

  デンマークでは1754年に王立美術アカデミーが設立され、1818年に教授となったクリストファ・ヴィルヘルム・エガスペアは戸外での風景画制作という手法・理念をローマから持ち帰り、近代デンマーク絵画の発展に決定的な影響を与えました。

一方、この頃のデンマークはナポレオン戦争の敗戦から王侯貴族の力が落ち、代わって中産階級が台頭したことで、その趣味を反映した作品が求められるようになりました。

  これらの要因が重なり、1800~1864年はデンマーク絵画の「黄金期」と呼ばれ、数多くの優れた画家と作品が生み出されます。

 

その中から・・・

 

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(クレステン・クプゲ「フレズレクスボー城の棟ー湖と町、森を望む風景」1834-1835 油彩/カンヴァス 177.0×171.0cm)

 

クレステン・クプゲはエガスペアの教えを受けた画家で、黄金期の最も優れた画家のひとり、ハマスホイが最も敬愛した画家のひとりです。

人の背丈ほどある大きな作品。手前に尖塔と煙突、黒い屋根、そこから湖・町へと遠景につながる。対象物との距離感の違いがよりその場にいる雰囲気と遠景の穏やかな光景を際立たせます。

 

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(コンスタンティーン・ハンスン「果物籠を持つ少女」1827 油彩/カンヴァス 59.0×48.5cm)

 

こちらもエガスペアの教え子。色数が多くなく、落ち着いた色遣いのこの絵はのちにハマスホイが所有することとなり、晩年を過ごした家に飾られていたようです。この落ち着いた雰囲気がハマスホイの作風にも通じるのかもしれません。

 

さて、次は「スケーイン派」

1840年代、民主化を求める自由主義者、デンマーク・ユラン半島(地図では左側に位置する半島)の南部・シュレースヴィヒ=ホルシュタインをめぐるドイツとの争いにより国内ではナショナリズムが高まりをみせます。そんな中、都市化されたコペンハーゲンから失われゆく古き良きデンマークの姿を芸術家たちは求め歩き、ユラン半島は北端の町「スケーイン」に行き着きます。

(よく見ると、コペンハーゲンは右側の島のさらに端の町なんですね)

 

この北の町の厳しい自然と漁師たちが繰り広げる世界は「プリミティヴなデンマーク」として芸術家たちの憧れとなります。この町にはかの有名な童話作家・アンデルセンも訪れていたとか。

そんなスケーインに魅了された「スケーイン派」の画家たちの作品です。

 

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(オスカル・ビュルク「スケーインの海に漕ぎ出すボート」1884 油彩/カンヴァス 160.0×194.5cm)

 

  まさに荒い海、厳しい自然の中で生活をするたくましい漁師の姿。スケーイン派が求めた世界観が現れた作品なのではないかと感じました。

こちらのビュルクはスウェーデン出身の画家で1882年に初めてスケーインを訪れ、その後も何度か、この町で過ごしたようです。1888年以降はスウェーデンに落ち着き、優美な肖像画で人気を博したとのこと。

 

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(オスカル・ビュルク「遭難信号」1883 油彩/カンヴァス 127.0×186.0cm)

 

  もう一枚、ビュルクの作品。不安げに窓の外を見る母。身を乗り出した後姿の男の子は海に出た父を案じているのでしょう。一方、何事もないかのように皿の上の食べ物に手を伸ばす赤ちゃん。日常を切り裂く緊張感が走った瞬間を見事に表現した作品です。

 

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(ピーザ・スィヴェリーン・クロイア「漁網を繕うクリストファ」1886 油彩/カンヴァス 47.3×38.9cm)

 

 こちらは、背中からの光を受けて男が網を繕っています。くゆらすパイプからの煙が光に溶けていくよう。比較的素早い筆致で光と影の織り成す世界を巧みに表現しています。印象派に通じるものも感じます。

画家のクロイアはノルウェー生まれ、幼少期をコペンハーゲンで過ごし、王立美術アカデミーに学びます。1877年オランダ経由でパリに到着、サロンの絵画、印象派の絵画などにも触れています。ハマスホイの指導もしていたとか。

 

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(ピーザ・スィヴェリーン・クロイア「スケーイン南海岸の夏の夕べ、アナ・アンガとマリーイ・クロイア」1893 油彩/カンヴァス 35.8×60.0cm)

 

  こちらも、クロイアの作品。青い空、青い海、白い砂浜。青い世界と白い世界を対角線に区切るような海岸線。少し離れたところを歩く女性はスケーイン派の画家、本展でも作品が展示されているアナ・アンガと画家の妻。光に包まれた明るく美しい一枚です。

 

 

  続きましては「19世紀末のデンマーク絵画~」から。

 

 この頃は旧態依然としたアカデミーの絵画に反発した画家たちが官展に落選した作品を集めた「落選展」を開催し、そして後に「独立展」へと発展します。そこはゴッホ、ゴーガンといった最新の芸術を紹介する場であり、若手芸術家が自由に作品を発表する場ともなります。

また1880年代以降のコペンハーデンではデンマーク語の「ヒュゲ(hygge)」=「くつろいだ、心地よい雰囲気」な世界を表現した室内画が人気を博します。

 

  家族が集う室内に広がるヒュゲな空間。デンマークの人々が愛する世界を表現した作品です。

 

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(ヴィゴ・ピーダスン「居間に射す陽光、画家の妻と子」1888 油彩/カンヴァス 35.5×45.5cm)

 

  陽だまりで子どもと過ごす画家の妻。穏やかな時間が過ぎていきます。まさに、ヒュゲな世界。

 

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(ヴィゴ・ヨハンスン「きよしこの夜」1891 油彩/カンヴァス 127.2×158.5cm)

 

  クリスマスツリーを囲むお母さんと子どもたち。のけぞってツリーを見上げる男の子、うれしいそうな表情の女の子、やさしく目をやるお母さん。暗い部屋の中で輝くツリー、それを囲む家族。これもまさにヒュゲの世界。

 

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(ラウリツ・アナスン・レング「遅めの朝食、新聞を読む画家の妻」1898 油彩/カンヴァス 52.0×40.5cm)

 

  遅めの朝食。背中を向けて新聞を読む妻。差し込む光。何気ない生活の一瞬に宿る幸福感。とても好きな絵です。このような生活の中で垣間見える幸せな瞬間が画題として描かれるのも、絵画を求める層が市民へと広がったことによるものとのこと。素敵な時間が描かれています。

  

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(ピーダ・イルステズ「縫物をする少女」1898-1902 油彩/カンヴァス 62.5×55.0cm)

 

  窓辺で小さな子供が少し背を向けながら縫物をしています。窓から差し込む穏やかな光。「ヒュゲ」ですよね。

でも、この絵、少し、今までとは違います。不自然に離れた机と椅子。女の子の脚は床に届きません。自分では座れないはず。

直線的な窓、棚、机、椅子の構成に曲線的な女の子の姿を添えた。そう、この絵は室内空間の方がメイン。なんだかこの絵の中には音が無いように思われます。

 

  こちらのピーダ・イルステズはハマスホイの妻イーダの兄、ハマスホイの義理のお兄さんになります。

 

  そして、いよいよ「ハマスホイ」の部屋に。

 

 

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(ヴィルヘルム・ハマスホイ「画家と妻の肖像、パリ」1892 油彩/カンヴァス 36.5×65.0cm)

 

1891年9月5日、イーダと結婚したハマスホイは新婚旅行先のパリでこの絵を描きます。初々しさが残る二人の表情。そして妻イーダはこの後のハマスホイの作品のモデルとなっていきます。

 


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(ヴィルヘルム・ハマスホイ「室内」1898 油彩/カンヴァス 51.5×46.0cm)

 

背中を向けた女性は妻のイーダ。灰色を基調とした絵全体に白のテーブルクロスが際立ちます。はっきりとした折り目は今おろしたばかりのよう。直線・曲線、白・灰色の組み合わせが作り出す音のない世界。絵に近づいて見ると意外と多きな筆致でこの滑らかな画面を作り上げています。

 

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(ヴィルヘルム・ハマスホイ「室内ー開いた扉、ストランゲーゼ30番地」1898 油彩/カンヴァス55.0×47.0cm)

 

  いよいよ人も家具もなくなり「室内空間」だけになりました。ハマスホイは歴史を重ねた部屋の空間を描くことを好み、新しい部屋では作品を残さなかったとか。床の色のムラは誰もいないのに、誰かがいたことを感じさせる。それが歴史を重ねた部屋が持つ美しさなのかもしれません。

 

「私はかねてより、古い部屋には、たとえそこに誰もいなかったとしても、独特の美しさがあると思っています。あるいは、まさに誰もいないときこそ、それは美しいのかもしれません」とはハマスホイの言葉から。(1907)

 

この絵はよく見ると絵の左上、ドア、枠の上の方が歪んでいます。

これは、画家が意図したものではなく絵を額への取り付けたあと、時間を経て額の歪みによってできたものとか。歴史ある部屋を描いたその絵もまた時を経て、さらに美しくなっているように思います。

 

f:id:YoroCon:20200427004526j:image(ヴィルヘルム・ハマスホイ「室内ー陽光習作、ストランゲーゼ30番地」1898 油彩/カンヴァス55.0×47.0cm)

 

中庭に面した窓から差し込む光。ハマスホイはこの部屋を気に入り、少なくとも15ヴァージョンの絵を制作しています。窓の右のドア。よく見るとドアノブがありません。他の絵ではドアノブが描かれていて実際はあったようです。自分が思い描いた世界を絵にするため実際の世界より、表現したいものを優先したハマスホイ。この陽光を描くのに、きっとドアノブはいらなかったのでしょう。

 

 

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(ヴィルヘルム・ハマスホイ「室内、蝋燭の明かり」1909 油彩/カンヴァス60.0×82.8cm)

 

  誰もいないテーブルに灯る蝋燭の火。この火そのものがここに座る二人の姿なのでしょう。ハマスホイとイーダでしょうか。

 

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(ヴィルヘルム・ハマスホイ「聖ペテロ聖堂」1906 油彩/カンヴァス133.0×118.0cm)

 

ハマスホイは風景画も残しています。こちらも人の姿はありません。近代化の波の中、変わり行く首都・コペンハーゲン。その中で変わらない歴史ある建造物。街への郷愁と変わりゆくことへの諦観を込めて、作品を制作していたようです。

 

 

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(ヴィルヘルム・ハマスホイ「カード・テーブルと鉢植えのある室内、ブレズゲーゼ25番地」1910-11 油彩/カンヴァス78.5×71.0cm)

 

  テーブルの上にはハマスホイの絵には珍しい植物の鉢植えがポツンとひとつ。直線で区切られた画面のなかで有機的な存在が際立ちます。奥行きのない奥の部屋。植物の存在を際立たせるために奥行きがなくなったようです。テーブルの脚も、左と右を比べると右奥が一本消えているのか、隠れているのか・・・

 

さて、展覧会はここまで。

出口を抜けてミュージアムショップへ。

 

(4) ミュージアムショップ

パンフレットの絵が表紙の図録を購入しました。  f:id:YoroCon:20200427001112j:image

 

3. さいごに

ハマスホイの絵画は無音の世界。それは時間の流れない世界。

時間の流れを閉じ込めることに成功した絵画は"完全なる絵画"と言えるかもしれません。

そして寂寥、寂寞とも違う世界。そこにはどこか穏やかさが残る「静謐」な世界。

デンマーク絵画とハマスホイを取り上げた展覧会は寒い冬の夜に、見た後に柔らかな温もりが残る展覧会だったと思います。

デンマーク絵画とハマスホイ。奥深く素敵な世界でした。

 

なお、本展覧会は以下の通り巡回します。

・山口県立美術館:2020/4/7(火)-6/7(日)

※ ただし、新型コロナウィルスの影響で5/10頃まで開幕延期。(4/27現在)

ハマスホイとデンマーク絵画|2020年4月7日(火)〜6月7日(日)|山口県立美術館

 

  今回のレポートは以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

また、次のレポートもよろしくお願いいたします。

 

※ ご意見、ご感想、大歓迎です。是非コメントかメール(yorocon46@gmail.com)まで。ツィッターは@yorocon46です。

 
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(美術館を出ての一枚。このまま真っ直ぐ帰りました。確か・・・)