自称アート・リポーターこと、よろコンです。
今回も過去に訪問した展覧会について、レポートします。
(本ブログでは既に完了した展覧会も含め、好きな展覧会をレポートしていきます)
今回は、少し(だいぶ?)前、2018年3月18日(日)に訪問した
「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」@国立新美術館
です。
印象派の名品を中心とした、見ごたえのある素晴らしい展覧会でした。
もちろんお目当てはルノワールの"あの女の子"
今回も最後までお読みいただけますと幸いです。
【目次】
※ 以下の記述は展覧会の解説、図録、パンフ、その他WEB上の資料等を参照の上、記述しております。また、絵画の写真は購入した展覧会図録・絵ハガキを撮影しています。
1. 展覧会概要
(1) どんな展覧会か
ビュールレ・コレクションを構築したエミール・ゲオルグ・ビュールレは1890年8月31日、ドイツ南西のシュトゥットガルト近くのプフォルツハイムに生まれます。お父さんは公務員、中学の頃から美術・文学に興味を持つ少年だったようです。
第一次世界大戦では招集されマシンガン部隊の指揮官として前線に。この駐留地で縁あって結婚、銀行家であった義理のお父さんが株主のマクデブルグ工作機械社の一員となります。このことが、ビュールレのこれから道を大きく決定づけます。
この会社は、のちにスイスの工作機械社エルリコーンを買収。その代表としてビュールレは派遣されます。エルリコーン社は武器を製造し、1938年に親会社からも独立。エルリコーン・ビュールレ社となり、ビュールレは社長として成功を収めます。
コレクションの方は1936年、ルノワールの静物、ドガの踊り子の素描を含む4点の購入を皮切りに、収集がスタート。1937年にスイス国籍を取得、チューリッヒに移住してからは、さらに絵画収集が本格化します。
第二次世界大戦下では76もの作品を購入。あのナチスが「退廃美術」とした作品もオークションで購入。コレクションを拡大していきます。
やがて、戦争は終わりに・・・
1944年スイスは軍需関係製品の輸出を完全禁止。エルリコーン・ビュールレ社は武器製造から民生品の製造にシフト。コレクションも第二次世界大戦後、ドイツの略奪品として没収されるものも。紆余曲折ありながらも、その後も、ビュールレ・コレクションは発展を続けていきます。
生涯で入手した美術品633点。手元に残った作品550点。印象派を中心に一大コレクションを形成したビュールレは1956年11月28日、チューリッヒにてその生涯を閉じます。享年66歳。
ビュールレの死後、E.Gビュールレ・コレクション財団が設立され、コレクションの展示など管理してきましたが、2020年チューリッヒ美術館に移管されることが決定。
2018年の展覧会は、日本で27年ぶりであり、最後の大規模展示となりました。
(2) 開催概要
・期間:2018/2/14(水) - 2018/5/7(月・休)
・会場:国立新美術館(乃木坂・六本木)
・チケット:一般 1600円、大学生 1200円、高校生 800円
・作品数:64点
・写真撮影:一点のみ撮影可能でした。(最後のモネの睡蓮の大作のみOKでした)
・Webサイト:
(国立新美術館のページ)
至上の印象派展 ビュールレ・コレクション|企画展|展覧会|国立新美術館 THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO
専用ページはもうリンク先が無いようです。
巡回先の名古屋市美術館、九州国立博物館のページが、今でも作品の画像を比較的多めに掲載されていましたので、あわせてリンクを載せておきます。
九州国立博物館 | 特別展『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』
(展示会場入り口)
(3) パンフレット
(表面)
(パンフの表紙は
ピエール=オーギュスト・ルノワール「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)」(部分) 1880 油彩/カンヴァス 65.0×54.0cm)
(見開き面)
(裏面)
(ポール・セザンヌ「赤いチョッキの少年」(部分) 1888-90 油彩/カンヴァス 79.5×64.0cm こちらも有名な少年です)
(4) 行くきっかけ
当時「日経おとなのOFF」でも見ましたし、チラシミュージアムでも見ましたし、日曜美術館でも見ましたし、とにかく、この年の前半の目玉の展覧会でした。2018年の秋はあの「フェルメール展」もあって、本当に素晴らしい展覧会が多かったですね。
(2020年も十分、素晴らしい展覧会が多いのですが、いかんせん新型コロナ(COVID-19)の影響が残念です)
2. 展覧会の中へ
(1) 訪問日・混雑状況
訪問日:2018/3/18(日) 16:15頃訪問。
鑑賞時間:多分、90分くらいだったと思います。
混雑状況:混んでいましたが、まだ会期前半だったので、ゆっくり見られました。
それでは美術館に入ります。
(2) 展覧会の構成
第1章 肖像画 / Section 1 Portrait Gallery
第2章 ヨーロッパの都市 / Section 2 European Cities
第3章 19世紀フランス絵画 / Section 3 French 19th Century Paintings
第4章 印象派の風景 - マネ、モネ、ピサロ、シスレー/ Section 4 Impressionist Landscape - Manet, Monet, Pissarro, Sisley
第5章 印象派の人物 - ドガとルノワール / Section 5 Impressionist Figures - Degas and Renoir
第6章 ポール・セザンヌ / Section 6 Paul Cezanne
第7章 フィンセント・ファン・ゴッホ / Section 7 Vincent van Gogh
第8章 20世紀初頭のフランス絵画 / Section 8 French Early 20th Century Paintings
第9章 モダン・アート / Section 9 Modern Paintings
第10章 新たなる絵画の地平 / Section 10 A New Dimension in Painting
(目録の館内図)
それでは、さっそく作品を見ていきましょう。
(3) 気になる作品
まずは「第1章 肖像画」の作品から。肖像画です。
肖像画はヨーロッパ芸術において重要な位置を占めています。
本展でも、数多くの作品が展示されていました。
(ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル「アングル夫人の肖像」1814 油彩/カンヴァス 70.0×57.0cm)
結婚後、間もない頃の作品とか。アングルがサロンの出品でも注文でもなく愛する妻を描いた作品。二人の気持ち、表情に現れています。
(エドガー・ドガ「ピアノの前のカミュ夫人」1869 油彩/カンヴァス 139.0×94.0cm)
眼科医の妻でピアニストでもあったカミュ夫人。その姿とともに、ピアノや鏡などの調度にも目がひかれます。
続いて「第2章 ヨーロッパの都市」からは・・・
(アントーニオ・カナール(カナレット)「サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂、ヴェネツィア」1738-42 油彩/カンヴァス 121.0×152.0cm)
イタリア地中海の澄んだ日差しを感じさせる風景画です。
(アンリ・マティス「雪のサン=ミシェル橋、パリ」1897 油彩/カンヴァス 60.0×73.0cm)
フォーヴのマティスの色遣いとは少し異なる感じですが、雪の白と川の灰色のような青と対照的な色が印象に残ります。
「第3章 19世紀のフランス絵画」です。
(カミーユ・コロー「読書する少女」1845-50 油彩/カンヴァス 42.5×32.5cm)
コローといえば風景画を思い出しますが、体調を崩した後半生は人物画を積極的に描いたとか。物静かに読書に耽る。赤い服も印象的です。
(エドゥアール・マネ「燕」1873 油彩/カンヴァス 65.0×81.0cm)
マネの描く草原と二人の女性。遠景の風車に牧場の牛。近くを燕が舞う。のどかさが伝わってきます。
「第4章 印象派の風景 - マネ、モネ、ピサロ、シスレー」から
(カミーユ・ピサロ「ルーヴシエンヌの雪」1870頃 油彩/カンヴァス 43.5×65.5cm)
雪が輝き、空気の冷たさが伝わってきそう。
(アルフレッド・シスレー「ブージヴァルの夏」1876 油彩/カンヴァス 47.0×62.0cm)
今度は夏。シスレーの広い空。夏の雲。光る川面。
(クロード・モネ「ヴェトゥイユ近郊のヒナゲシ畑」1879頃 油彩/カンヴァス 73.0×92.0cm)
モネは赤いヒナゲシの花が一面に広がるこの絵を選んでみました。純粋に華やかできれい。
「第5章 印象派の人物 - ドガとルノワール」から
(ピエール=オーギュスト・ルノワール「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)」1880 油彩/カンヴァス 65.0×54.0cm)
いよいよ、"彼女"の登場です。
美しく流れる髪、清楚な白いドレス、あどけなさも大人っぽさも秘めたその表情。
ルノワールの少女像でも最高傑作のひとつでしょう。
この絵は、ルノワールが依頼を受けて描かれましたが、当初は依頼者から気に入られず、飾られないまま家の片隅で眠っていたとか。
その後の世界大戦。この絵も描かれたイレーヌも過酷な運命へと巻き込んでいきます。そして、戦争が終わり、ようやく絵はイレーヌ本人の手元に戻ります。でも、彼女はこの絵を手放してしまいます。そして、現在。ビュールレ・コレクションの一作品として目の前に。いろいろ、考えさせられます。
(上記はNHK・Eテレ「日曜美術館」で取り上げられた内容を記憶に基づき書いてみました)
(ピエール=オーギュスト・ルノワール「夏の帽子」1893 油彩/カンヴァス 65.0×54.0cm)
ルノワールからもう一点。こちらも美しく、愛らしく。
「第6章 ポール・セザンヌ」から
(ポール・セザンヌ「パレットを持つ自画像」1890頃 油彩/カンヴァス 92.0×73.0cm)
セザンヌも多数の作品が来ていました。セザンヌとカンヴァスとパレットの位置関係はなんだか奥行きのなさを感じますが、絶妙に成立しているのすごい。
ビュールレをはじめとするコレクター達は本当にセザンヌを重要視していると感じます。(コートールドも好きでしたねぇ)
「第7章 フィンセント・ファン・ゴッホ」から
(フィンセント・ファン・ゴッホ「アニエールのセーヌ川にかかる橋」1887 油彩/カンヴァス 53.5×67.0cm)
ビュールレがセザンヌ同様に重要視した画家・ゴッホ。自画像、種をまく人等の作品が来ていましたが、こちらの一枚。青、茶色、黄色、オレンジといろいろな色が溢れています。
「第8章 20世紀初頭のフランス絵画」から
(ポール・ゴーギャン「肘掛け椅子の上のひまわり」1901 油彩/カンヴァス 68.0×75.5cm)
ひまわりはゴッホではなくゴーギャンから。ひまわりだけを描いたゴッホとひまわりの周りも描いたゴーギャン。同じ花でも二人の違いが出ているように思います。
(ピエール・ボナール「室内」1905頃 油彩/カンヴァス 59.5×40.5cm)
恋人マルトと扉の向こうの部屋、窓。アンニュイな感じ。
「第9章 モダン・アート」から
(パブロ・ピカソ「イタリアの女」1917 油彩/カンヴァス 149.0×101.5cm)
赤いドレスと幾何学的形態の組み合わせが目を引く、この作品を。
そして最後は
「第10章 新たなる絵画の地平」
ここはモネのこの作品のみ
(クロード・モネ「睡蓮の池、緑の反映」1920-26頃 油彩/カンヴァス 200.0×425.0cm)
4mを越える大作。もゆる緑の中、赤い睡蓮の花が浮遊します。
この作品のみ撮影可能でした。
ということで、展覧会はここまで。
この他にもシニャック、ブラック、ロートレック。また、モネ、ドガ、セザンヌ、ゴッホの他の作品も、もっと紹介したいのですが、今回はこの辺で・・・
出口を抜けてミュージアムショップへ。
(4) ミュージアムショップ
図録です。
絵ハガキです。
(イレーヌ嬢、何回登場しましたかねぇ・・・)
3. さいごに
ビュールレ・コレクション。数々の名品、美しい作品の宝庫です。ただ、このコレクションを語る上で忘れてならないのは、二回におよぶ世界大戦が大きな影響を与えているということです。ビュールレ自身が武器製造で得た資金で作品を購入しています。ナチスのかかわりもあります。そして、イレーヌ嬢本人も作品も、戦争に翻弄され、今に至ります。素晴らしいコレクションですが、その成り立ちには考えさせられるものがあります。そして、この先、イレーヌ嬢をはじめとしたこのコレクションが平和な世界の中で私たちの前にあり続けることを願ってやみません。
なお、本展覧会は国立新美術館の後、以下の通り巡回しました。
・九州国立博物館:2018/5/19(土)-7/16(月・休)
・名古屋市美術館:2018/7/28(土)-9/24(月・休)
(リンクは最初の方をご覧ください)
今回のレポートは以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
また、次のレポートもよろしくお願いいたします。
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