展覧会に行きたい!よろコンです。
本ブログでは既に完了した展覧会も含め、好きな展覧会をレポートしていきます。
今回は、2021年11月7日(日)に訪問した
「小早川 秋聲 -旅する画家の鎮魂歌」@東京ステーションギャラリー
です。
代表作の強烈なインパクトから「戦争画家」のイメージがどうしても強い小早川秋聲
ですが、それ以外にもとても繊細で情緒ある作品が多いことに気づかされました。そして、"あの"代表作も。間近で見て、あらためて考えさせられた展覧会でした。
旅に生き、戦地訪問を重ねた画家の行き着く先は・・・
秋聲の珠玉の作品展です。
今回も最後までお読みいただけますと幸いです。
【目次】
※ 以下の記述は展覧会の解説、図録、パンフ、その他WEB上の資料等を参照の上、記述しております。また、絵画の写真は購入した展覧会図録を撮影しています。
1. 展覧会概要
(1) どんな展覧会か
小早川 秋聲「こばやかわ しゅうせい」
1885年(明治18年)鳥取・光徳寺住職の長男として生まれます。
9歳で京都・東本願寺の衆徒として僧籍に入りますが、その後、画家になることを志し、日本画家・山口 香嶠(こうきょう)、山元 春挙(しゅんきょ)に師事。文展・帝展等への入選を重ねます。
秋聲は旅を好み、日本国内外に赴き、数多くの作品を残します。そして時代が変遷する中、従軍画家として何度も戦地に赴くことになります。
本展は、初期の歴史画から旅のスケッチ、戦争画から仏画と秋聲の画業を見渡す初めての大回顧展です。
小早川 秋聲の画室にて(図録から)
(2) 開催概要
・期間:2021/10/9(土) - 2021/11/28(日) ※ 終了間近(11/23夜記述時点)
・時間:10:00~18:00(入館は閉館30分前まで。金曜日は20:00まで。ローソンチケットによる入場日時予約制
・会場:東京ステーションギャラリー(東京駅・丸の内北口改札前)
・チケット:一般 1100円、大学生・高校生 900円、中学生以下無料
・作品数:112点(目録から)
・写真撮影:NG
・Webサイト:
(展覧会サイト)
(3) パンフレット
(表面)
金バージョン
「愷陣」1930年(昭和5年)
銀バージョン
「長崎へ航く」1931年(昭和6年)
(裏面)
2. 展覧会の中へ
(1) 訪問日・混雑状況
訪問日:2021/11/7(日) 16:30頃訪問。
鑑賞時間:約80分
混雑状況:人はいましたが、そこまでは混んでいませんでした。
(2) 展覧会の構成
第1章 / はじまり-京都での修業時代
※ 若かりし頃に描かれた端正な歴史画中心に
第2章 / 旅する画家-異文化との出逢い
※ 国内外を問わず旅先のスケッチや異国情緒あふれる作品。愛する我が子を取り巻く郷土玩具等々。異文化との触れ合いから生まれてくるた作品
第3章 / 従軍画家として-<<國之楯>>へと至る道
※ 従軍画家として何度も戦地に赴く中、描かれた作品たち。そして代表作「國之楯」へ
第4章 / 戦後を生きる-静寂の日々
※ 「戦犯」として捕らえられることも覚悟した画家。京都で老衰にてその生涯を閉じるまで描かれた平和への祈り
(3) 気になる作品
まずは、第1章の初期の作品から
「誉之的」 明治末期~大正期
写真は暗いのですが(^^;)、背景の金、海の青、鎧の赤ともっと色味は明るいです。
馬上から的を狙うのは源平合戦・那須与一。今まさに弓を引こうとするその刹那、与一の緊迫が伝わる一枚
第2章からは旅のスケッチ
「裏日本所見畫譜」1918年(大正7年)から
左上から
・応挙寺の和尚(香住):左上
・白糸の滝(但馬):右上
・余部の橋(余部):左中
・杉の薫り(妙見山):右中
・懐かしの村(御崎):左下
・雨の二見(城崎):右下
応挙寺の和尚の背中に灸のあと。ほんわかしてます。
余部の橋を渡る機関車はターナーを髣髴?!
「恋知り初めて」大正期
こちらは、これまでと雰囲気の違う作品。このタイトル、この表情、この雰囲気、そして背後に北斎の「山下白雨」
意味深な一枚
こちらは世界をスケッチ。上から
・「エジプト ミイラの回想」1923~24年(大正12~13年)
・「エジプト カルナック アイシス宮殿跡の月」1923~24年(大正12~13年)
・「ナポリ ベスビアスの夕月」1923~24年(大正12~13年)
エジプトから影響を受けていた秋聲。ミイラの絵。このあとの作品を見るのに少し心に留めておいてください。
「未来」1926年(大正15年)
「玩具」大正期
前年九月に生まれた長女・和子をモデルにした作品とのこと
金泥・金砂子の光の中、和子を取り巻く郷土玩具たち。健やかな眠り、夢、そして和子の未来を見守り、祈っています。
秋聲はこのような繊細なイメージを表現するのがとても素晴らしい画家と感じました。
そして「玩具」の並ぶ棚を猫が見上げる姿は、とても可愛らしい。
「愷陣」1930年(昭和5年)
図録から「戦地から故郷に帰還した兵士は讃えられ歓待を受けるのに、ともに戦火をくぐり抜けてきた軍馬は埃まみれのまま野に放たれるのを待っている。村人はそんな軍馬を花で飾り労をねぎらった」という漢詩に着想を得た作品とのこと。同じく図録「はらりと落ちる一片の白い花弁が儚く、落涙のようにもみえる」
本展覧会でいちばん印象に残った作品
第3章から
「御旗」1936年(昭和11年)
叉銃に立てかけられた軍旗を背に野営を守る兵隊
遠くにはかすかに浮かぶ月。足元は待宵草と月見草。よくみると叉銃にはバッタも描かれています。戦争画とは思えない情緒あふれる光景に兵士たちの一時の安息、静けさ
そして、秋聲の代表作
「國之楯」1944年(昭和19年)、1968年(昭和43年)改作
下絵は光臨が体全体を包んでいました。完成時は兵士のからだに桜の花びらが散っていたようです。それは戦後、黒く塗りつぶされました。先ほどのエジプトのミイラとも通じるその姿は悠久の時間を引き継いでいるのか。
陸軍省からの天覧のため作成依頼を受け、その題も「国の楯」「軍神」「大君の御楯」と推敲を重ね、結果、陸軍省からは「返却」。受け取りを拒まれます。
戦死者は「英霊」であり戦争賛美とも解釈できます。その悲しみは「厭戦」ともとらえられます。ある兵士はこの絵を見て直立して敬礼をし、ある女性はこの絵を見て涙を流したとか。
今を生きる私たちには、どのように見えますか?
そして最後の第4章から
「天下和順」1956年(昭和36年)
秋聲71歳の大作
「天下和順」は「てんげわじゅん」と読む無量寿経の偈文(げもん=仏・菩薩をたたえた言葉)。秋聲が好んで使った言葉とか。月下に集い酒を酌み交わし踊る人々は秋聲が望む平和、「天下和順」の世界を表現したのでしょう
展覧会の残り期間は少ないですが、もし機会があれば、是非見てみてください。
秋聲、これからも注目です。
ということで、この他にも、もっともっと紹介したいのですが、今回はこの辺で・・・
(4) ミュージアムショップ
図録と絵はがき購入です。
図録は2640円(税込み)
(表紙)
(裏表紙)
絵はがきは一枚180円(税込み)を四枚購入。絵はこのブログにすべて登場。果たして、どの四枚でしょう(^^)
3. さいごに
没後、しばらくは忘れられた存在となってしまった秋聲。
戦争画家という側面がその再評価を難しくしているところもあるようです。しかしながら2000年以降、再評価の機運が高まり、2019年にはNHKの日曜美術館でも取り上げられました。私はこれを見て知りました。
旅に生きた秋聲の繊細でどこか優しさのある作品、哀愁のある作品、兵士の気持ちにまで深く入り込み、単なる戦争画の枠を超えた作品たちは不安な状況が続く今の私たちが求める何かが表現されているのかもしれません。
ということで、今回のレポートは以上です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
また、次のレポートもよろしくお願いいたします。
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(夜の東京駅前の広場。秋の夕べは日が落ちるのが早い)