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好きなものをコレクションする。そんなコンセプトのブログです。旅にアートに、それからそれから...

【作品・その4】岡本太郎「太陽の塔」(1970) 大阪・万博記念公園(2020/4/30記述)

自称アート・リポーターこと、よろコンです。

 

  さて、今まで見てきた美術作品の中から、好きな作品をレポートしてコレクトするブログシリーズ。また、お付き合いただけますと幸いです。

 

  それでは、本日の作品はこちら。

 

岡本太郎

「太陽の塔」(1970)

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(写真はすべて2019年12月14日撮影)

 

  大阪・万博記念公園。そのあまりにも有名な異形の塔は他を圧倒する存在感でそこに立っています。晴れの日も、雨の日も、雲の多い日も。いつでも太陽が陽を照らし続けるかのように。

 

  上の写真は大阪モノレール・万博記念公園を降りたところから見た太陽の塔です。

 

  1970年3月15日から9月13日までの間、大阪で開催された日本万国博覧会には77か国が参加、6400万人を超える人が訪れました。

その万博のシンボルゾーンにテーマ館として造られたのが太陽の塔。

デザインは言わずと知れた岡本太郎(1911-1996)

日本を代表する前衛芸術家の一人。

「何だこれは」

と目を見開き、

「芸術は爆発だ!」

と叫ぶ姿は、アラフィフ世代の方なら子どもの頃に一度はマネをしたのではないでしょうか?当時は「ちょっとアブナい人・・・?」なんて思っていたかなぁ・・・

 

  そんな岡本太郎は1911年2月26日、芸術一家に生まれ、慶應義塾幼稚舎・普通部を経て、1929年東京美術学校(現・東京藝術大)に。その年12月、太郎18歳のとき、父・一平のロンドン取材旅行に同行し、家族で神戸を出港。自身は翌1月フランス・パリへ。その後、10年間過ごしますが、戦争の影響により1940年29歳のとき日本に戻ります。二科賞を受賞するなどの活躍もありますが、1942年31歳の時には中国戦線に出征。終戦後、日本に戻ってからは日本の前衛芸術の先頭を切る存在として多彩な活動を続けていきます。

  フランスにいるときは、かのシュルレアリスムの創始者アンドレ・ブルトンの勧めで国際シュルレアリスム展に出品。戦地から戻った後、のちのノーベル文学賞・川端康成邸に居候したりと、やはりとてもスゴい方なのです。

 

  さて、その太郎ですが1967年7月7日57歳のとき、大阪万博の日本テーマ館展示プロデューサーに就任します。これには当時・通産官僚であった堺屋太一の関わりが。

日本テーマ館の建設にあたっては基幹施設プロデューサーであった丹下健三の「未来都市を思わせるように会場の中心区域を大屋根で覆う」という大胆な計画と「会場の真ん中に生命をモチーフにした塔を作る」という岡本太郎のこれまた常識を超越した案が対立したとか。最後は屋根の真ん中に穴をあけて塔を建てるという案に落ち着いたようです。

 

 その岡本太郎の太陽の塔ですが、高さ70m、基底部(根元)の直径20m、片腕の長さ25m。現代のわれわれから見ても巨大なモニュメントです。

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千里の空にそびえ立ちます。

 

  この太陽の塔には4つの顔があります。

まずは塔のいちばん高いところに輝く「黄金の顔」は「未来」の象徴。

次に胴体の中央部、正面を見据える白い「太陽の顔」は「現在」の象徴。

そして背後に描かれた「黒い太陽」は「過去」の象徴。

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最後、四つ目の顔は塔の中の「地底の太陽」

万博終了後、その行方は分からなくなり50年経った今も不明。

しかしながら、太陽の塔の修復工事とともに四つ目の顔は復元されました。そして長らく非公開であった塔の内側の展示「生命の樹」も。

 

  現在では、オフィシャルサイトから予約することで塔の内部を見に行くことができます。ということで、2019年12月14日に訪問してきました。

 

  それでは、いざ、塔の中へ。

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入口から通路を抜けていきます。

通路の途中には岡本太郎の残したデッサンの展示が。
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そして、現れるのは4つ目の顔「地底の太陽」
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プロジェクションマッピングで赤く燃えたり、青くなったり、黄色になったりと様々な表情を見せます。太陽の両脇には様々な民族の人形やお面の展示が。 

それでは、太陽の塔「生命の樹」へ
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「生命の樹」の根元には何やら海のイソギンチャクとも食虫植物とも何かの菌ともとれるような原始的な生物が。樹を這うのは三葉虫でしょうか。
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見上げると高さ41mの樹の幹。クラゲや、魚や、イカなどの海の生物。
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上の方に恐竜がいるのが分かりますか?ひれがある首の長い恐竜はプレシオサウルスでしょうか?

 

  写真撮影ができるのはこの一階のみ。あとはガイドの方の説明を聞きながら5階まで階段を上っていきます。写真の左上に見える白い通路のようなものが階段です。これは当時はエスカレーターだったとか。中が空洞な建造物の壁にエスカレーターを設置したので、のちの耐震基準に合わず、公開ができなかったよう。階段にすることで重量を軽くして無理な負荷がかからないようにしたことで基準を満たせるようになったようです。

そして、この階段を上にのぼっていくと、鳥や動物、最後は人類へと続いていきます。

太陽の中で脈々と続く生命の歴史。

塔の上の方にはゴリラ(もちろん模型)がいるのですが、一部のゴリラは顔の表面が劣化し、中の機械がむき出しになっています。それをあえて修復しないことで、当時の姿をそのままに残しているとのこと。機械仕掛けで動くリアルな動物たちが1970年の展示物として造られたと考えると、その創造性、先進性に正直、驚かされます。

 

  塔の中は階段で5階までゆっくり上るツアーとエレベータで1階、3階、5階に止まり鑑賞するツアーがあります。ガイドの方の話を聞きながらゆっくり上りますので、階段でも体力的には問題はないと思いますが、足の具合の悪い方はエレベータのツアーでも十分に鑑賞できると思います。

 

  塔から出て再び外へ。


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 帰り道、見上げる塔はこれから夕陽に向かって羽ばたこうとしているかのようでした。

 

  太陽の塔ができた1970年は私の生まれた年(万博は終わっましたが)

同じ年のこの塔は、私が30代前半のころ忘れられない存在となりました。

当時、近隣に出張で来ていた私。仕事は問題多発、スケジュール遅延も。そんな状況の中では、帰りが深夜に及ぶこともしばしば。プレッシャーと焦りを感じ、職場に通っていました。その途中、かならず私の目に飛び込んできたのが、この大きな塔でした。

最初の頃、その異形の姿は深夜に見ると不気味だし、遠い存在に思えていました。でも、毎日、この塔を見ているうちに、だんだんと塔に応援されているような気になってくるのです。朝は「行ってこい」夜は「お疲れ」と声をかけてくれてるような・・・

この塔が持つ力なんだろうなぁとしみじみ感じました。毎日、塔に会うのが楽しみになってきました。その仕事は三週間続き、ようやく出張も終わりに。最後、家に帰るとき、小さな太陽の塔を買いました。それは、20年近く経った今でも私の部屋にいます。少し仕事に疲れたとき、いつでも勇気づけてくれるような・・・

 

思い出にひたりながら、最後にもう一度太陽の塔を見ると「あっ」

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「虹が」

塔に腕の下に虹が。塔が腕を振り上げて虹を作ったかのよう。

やっぱり、この塔、何かの力を持っているようです。

また必ずこの塔に会いきます。その日まで、ごきげんよう。

 

 

  以下、関連リンクです。

 

  太陽の塔のオフィシャルサイト

taiyounotou-expo70.jp予約できます。

 

  万博記念公園のサイト。当時の万博の様子もうかがえます。

www.expo70-park.jp

青山の岡本太郎記念館と川崎の美術館のサイトも

ようこそ岡本太郎記念館へ!

ホーム|川崎市岡本太郎美術館

岡本太郎の年表もあります。

 

2025年の大阪万博。今度はどんな万博になるのでしょう。


ということで、ここまで、お読みいただき、ありがとうございました。

いかがでしたか?次の作品もお付き合いください。

 

  以上です。ではでは。

 

(万博記念公園駅から見た太陽。
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天使のはしご?とまではいかないですかね。でもいい空でした)

 

【展覧会】「ハマスホイとデンマーク絵画」展@上野・東京都美術館のレポート(2020/2/1 鑑賞)

自称アート・リポーターこと、よろコンです。

 

※ 2020/4/29時点、重大事態宣言により東京は新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大を防ぐため、外出自粛の状況にあります。5/6まで多くの美術館が臨時閉館となっています。今回も過去に訪問した展覧会について、レポートします。

(本ブログでは既に完了した展覧会も含め、好きな展覧会をレポートしていきます)

 

今回は、今年(2020年)2月1日(土)に訪問した

 

「ハマスホイとデンマーク絵画」@東京都美術館

 

 です。

 

18:00から人数限定で鑑賞できるナイト・ミュージアムに行ってきました。

ハマスホイ。確か、以前は「ハンマースホイ」と書かれていたような・・・

2月の冬の夜。デンマークから来た"心地よい"作品との夕べ。

最後までお読みいただけますと幸いです。

 

【目次】

 

※ 以下の記述は展覧会の解説、図録、パンフ、その他WEB上の資料やBS日テレ「ぶらぶら美術・博物館」等を参照の上、記述しております。また、絵画の写真は購入した展覧会図録を撮影しています。

 

1. 展覧会概要

(1) どんな展覧会か

ヴィルヘルム・ハマスホイ(Vilhelm Hammershøi)は1864年、デンマークの首都・コペンハーゲンに生まれます。(~1916年)

「室内画の画家」として知られ、灰色を基調とした少ない色数で描かれたその作品は、まさに"静謐"という言葉がふさわしい、静かで穏やかな空気に包まれます。そして、近代化の波の中、変わりゆくコペンハーゲンで変わらないものへの郷愁と愛情を込めて描き続けます。

本展覧会は、40点近くのハマスホイの作品に焦点を当てるとともに、19世紀前半の「黄金期」から、19世紀後半、20世紀初頭へと移り変わりゆくデンマーク絵画を日本で初めて紹介する展覧会となっています。

2008年に国立西洋美術館で開催された展覧会から10年以上の時を経て、再び東京にハマスホイがやってきます。

 

(2) 開催概要

 ・期間:2020/1/21(火) - 2020/3/26(木) ※ 新型コロナの影響で途中終了

 ・会場:東京都美術館(上野)

 ・チケット:一般 1600円、大学生・専門学校生 1300円、高校生 800円、65歳以上1000円

 ・作品数:86点(ハマスホイの作品は約40点)

 ・写真撮影:NGでした 

 ・Webサイト:

(専用サイト)

artexhibition.jp

(東京都美術館のページ)

www.tobikan.jp

(美術館の会場入り口のパネル)

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(3) パンフレット

(表面)

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この絵はヴィルヘルム・ハマスホイ「背を向けた若い女性のいる室内」1903-1904 油彩/カンヴァス 60.5×50.5cm

左のパンチボウルはロイヤル コペンハーゲン。少し割れているため蓋が合わず右側に少し隙間が。このパンチボウルと女性の持つ銀のトレイも展示されています。

 

(中・左面)
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(中・右面) 

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(裏面)
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(4) 行くきっかけ

チラシミュージアムを見て知りました。2008年の西洋美の展覧会を見に行っていて、その絵に惹かれるものを感じ、今回の展覧会も行くことにしました。

余談ですが、2008年の展覧会では「ハンマースホイ」と表記されていました。英語読み(?)での表記だと思いますが、それに馴染んでいたので「ハマスホイ」の表記は最初、違和感がありました。でも、こちらの方がより本来の言語に近い発音とのこと。これからはこちらに慣れないとですね。

 

2. 展覧会の中へ

(1) 訪問日・混雑状況

訪問日:2019/2/1(日) 晴れ 18:00過ぎ訪問。

鑑賞時間:約120分

混雑状況:人数限定のナイト・ミュージアムの特別チケットを購入して鑑賞しました。開始時間ピッタリで入ったので、人数限定なのに最初の方は、少し混雑していました(^^;)

こういう時は少し時間をずらして見に行くか、入ったら、順番に最初からではなく、人がいない途中の絵から見た方が良いですね。次回の参考に。

閉館が20:30でしたので、結構、何回も会場内を行ったり来たりして、ゆっくりたっぷり見ることができました。

 

それでは美術館に入ります。

 

(2) 展覧会の構成

19世紀から20世紀初頭のデンマーク絵画の流れを追って、最後、ハマスホイの部屋に入っていくように構成されています。

 

1. 日常礼賛-デンマーク絵画の黄金期

2. スケーイン派と北欧の光

3. 19世紀末のデンマーク絵画-国際化と室内画の隆盛

4. ヴィルヘルム・ハマスホイー首都の静寂の中

 

 

f:id:YoroCon:20200202203723j:image (目録の館内図)

 

それでは、作品を見ていきましょう。

 

(3) 気になる作品

  まずは「1. 日常礼賛~」の作品から。

  デンマークでは1754年に王立美術アカデミーが設立され、1818年に教授となったクリストファ・ヴィルヘルム・エガスペアは戸外での風景画制作という手法・理念をローマから持ち帰り、近代デンマーク絵画の発展に決定的な影響を与えました。

一方、この頃のデンマークはナポレオン戦争の敗戦から王侯貴族の力が落ち、代わって中産階級が台頭したことで、その趣味を反映した作品が求められるようになりました。

  これらの要因が重なり、1800~1864年はデンマーク絵画の「黄金期」と呼ばれ、数多くの優れた画家と作品が生み出されます。

 

その中から・・・

 

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(クレステン・クプゲ「フレズレクスボー城の棟ー湖と町、森を望む風景」1834-1835 油彩/カンヴァス 177.0×171.0cm)

 

クレステン・クプゲはエガスペアの教えを受けた画家で、黄金期の最も優れた画家のひとり、ハマスホイが最も敬愛した画家のひとりです。

人の背丈ほどある大きな作品。手前に尖塔と煙突、黒い屋根、そこから湖・町へと遠景につながる。対象物との距離感の違いがよりその場にいる雰囲気と遠景の穏やかな光景を際立たせます。

 

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(コンスタンティーン・ハンスン「果物籠を持つ少女」1827 油彩/カンヴァス 59.0×48.5cm)

 

こちらもエガスペアの教え子。色数が多くなく、落ち着いた色遣いのこの絵はのちにハマスホイが所有することとなり、晩年を過ごした家に飾られていたようです。この落ち着いた雰囲気がハマスホイの作風にも通じるのかもしれません。

 

さて、次は「スケーイン派」

1840年代、民主化を求める自由主義者、デンマーク・ユラン半島(地図では左側に位置する半島)の南部・シュレースヴィヒ=ホルシュタインをめぐるドイツとの争いにより国内ではナショナリズムが高まりをみせます。そんな中、都市化されたコペンハーゲンから失われゆく古き良きデンマークの姿を芸術家たちは求め歩き、ユラン半島は北端の町「スケーイン」に行き着きます。

(よく見ると、コペンハーゲンは右側の島のさらに端の町なんですね)

 

この北の町の厳しい自然と漁師たちが繰り広げる世界は「プリミティヴなデンマーク」として芸術家たちの憧れとなります。この町にはかの有名な童話作家・アンデルセンも訪れていたとか。

そんなスケーインに魅了された「スケーイン派」の画家たちの作品です。

 

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(オスカル・ビュルク「スケーインの海に漕ぎ出すボート」1884 油彩/カンヴァス 160.0×194.5cm)

 

  まさに荒い海、厳しい自然の中で生活をするたくましい漁師の姿。スケーイン派が求めた世界観が現れた作品なのではないかと感じました。

こちらのビュルクはスウェーデン出身の画家で1882年に初めてスケーインを訪れ、その後も何度か、この町で過ごしたようです。1888年以降はスウェーデンに落ち着き、優美な肖像画で人気を博したとのこと。

 

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(オスカル・ビュルク「遭難信号」1883 油彩/カンヴァス 127.0×186.0cm)

 

  もう一枚、ビュルクの作品。不安げに窓の外を見る母。身を乗り出した後姿の男の子は海に出た父を案じているのでしょう。一方、何事もないかのように皿の上の食べ物に手を伸ばす赤ちゃん。日常を切り裂く緊張感が走った瞬間を見事に表現した作品です。

 

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(ピーザ・スィヴェリーン・クロイア「漁網を繕うクリストファ」1886 油彩/カンヴァス 47.3×38.9cm)

 

 こちらは、背中からの光を受けて男が網を繕っています。くゆらすパイプからの煙が光に溶けていくよう。比較的素早い筆致で光と影の織り成す世界を巧みに表現しています。印象派に通じるものも感じます。

画家のクロイアはノルウェー生まれ、幼少期をコペンハーゲンで過ごし、王立美術アカデミーに学びます。1877年オランダ経由でパリに到着、サロンの絵画、印象派の絵画などにも触れています。ハマスホイの指導もしていたとか。

 

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(ピーザ・スィヴェリーン・クロイア「スケーイン南海岸の夏の夕べ、アナ・アンガとマリーイ・クロイア」1893 油彩/カンヴァス 35.8×60.0cm)

 

  こちらも、クロイアの作品。青い空、青い海、白い砂浜。青い世界と白い世界を対角線に区切るような海岸線。少し離れたところを歩く女性はスケーイン派の画家、本展でも作品が展示されているアナ・アンガと画家の妻。光に包まれた明るく美しい一枚です。

 

 

  続きましては「19世紀末のデンマーク絵画~」から。

 

 この頃は旧態依然としたアカデミーの絵画に反発した画家たちが官展に落選した作品を集めた「落選展」を開催し、そして後に「独立展」へと発展します。そこはゴッホ、ゴーガンといった最新の芸術を紹介する場であり、若手芸術家が自由に作品を発表する場ともなります。

また1880年代以降のコペンハーデンではデンマーク語の「ヒュゲ(hygge)」=「くつろいだ、心地よい雰囲気」な世界を表現した室内画が人気を博します。

 

  家族が集う室内に広がるヒュゲな空間。デンマークの人々が愛する世界を表現した作品です。

 

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(ヴィゴ・ピーダスン「居間に射す陽光、画家の妻と子」1888 油彩/カンヴァス 35.5×45.5cm)

 

  陽だまりで子どもと過ごす画家の妻。穏やかな時間が過ぎていきます。まさに、ヒュゲな世界。

 

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(ヴィゴ・ヨハンスン「きよしこの夜」1891 油彩/カンヴァス 127.2×158.5cm)

 

  クリスマスツリーを囲むお母さんと子どもたち。のけぞってツリーを見上げる男の子、うれしいそうな表情の女の子、やさしく目をやるお母さん。暗い部屋の中で輝くツリー、それを囲む家族。これもまさにヒュゲの世界。

 

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(ラウリツ・アナスン・レング「遅めの朝食、新聞を読む画家の妻」1898 油彩/カンヴァス 52.0×40.5cm)

 

  遅めの朝食。背中を向けて新聞を読む妻。差し込む光。何気ない生活の一瞬に宿る幸福感。とても好きな絵です。このような生活の中で垣間見える幸せな瞬間が画題として描かれるのも、絵画を求める層が市民へと広がったことによるものとのこと。素敵な時間が描かれています。

  

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(ピーダ・イルステズ「縫物をする少女」1898-1902 油彩/カンヴァス 62.5×55.0cm)

 

  窓辺で小さな子供が少し背を向けながら縫物をしています。窓から差し込む穏やかな光。「ヒュゲ」ですよね。

でも、この絵、少し、今までとは違います。不自然に離れた机と椅子。女の子の脚は床に届きません。自分では座れないはず。

直線的な窓、棚、机、椅子の構成に曲線的な女の子の姿を添えた。そう、この絵は室内空間の方がメイン。なんだかこの絵の中には音が無いように思われます。

 

  こちらのピーダ・イルステズはハマスホイの妻イーダの兄、ハマスホイの義理のお兄さんになります。

 

  そして、いよいよ「ハマスホイ」の部屋に。

 

 

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(ヴィルヘルム・ハマスホイ「画家と妻の肖像、パリ」1892 油彩/カンヴァス 36.5×65.0cm)

 

1891年9月5日、イーダと結婚したハマスホイは新婚旅行先のパリでこの絵を描きます。初々しさが残る二人の表情。そして妻イーダはこの後のハマスホイの作品のモデルとなっていきます。

 


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(ヴィルヘルム・ハマスホイ「室内」1898 油彩/カンヴァス 51.5×46.0cm)

 

背中を向けた女性は妻のイーダ。灰色を基調とした絵全体に白のテーブルクロスが際立ちます。はっきりとした折り目は今おろしたばかりのよう。直線・曲線、白・灰色の組み合わせが作り出す音のない世界。絵に近づいて見ると意外と多きな筆致でこの滑らかな画面を作り上げています。

 

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(ヴィルヘルム・ハマスホイ「室内ー開いた扉、ストランゲーゼ30番地」1898 油彩/カンヴァス55.0×47.0cm)

 

  いよいよ人も家具もなくなり「室内空間」だけになりました。ハマスホイは歴史を重ねた部屋の空間を描くことを好み、新しい部屋では作品を残さなかったとか。床の色のムラは誰もいないのに、誰かがいたことを感じさせる。それが歴史を重ねた部屋が持つ美しさなのかもしれません。

 

「私はかねてより、古い部屋には、たとえそこに誰もいなかったとしても、独特の美しさがあると思っています。あるいは、まさに誰もいないときこそ、それは美しいのかもしれません」とはハマスホイの言葉から。(1907)

 

この絵はよく見ると絵の左上、ドア、枠の上の方が歪んでいます。

これは、画家が意図したものではなく絵を額への取り付けたあと、時間を経て額の歪みによってできたものとか。歴史ある部屋を描いたその絵もまた時を経て、さらに美しくなっているように思います。

 

f:id:YoroCon:20200427004526j:image(ヴィルヘルム・ハマスホイ「室内ー陽光習作、ストランゲーゼ30番地」1898 油彩/カンヴァス55.0×47.0cm)

 

中庭に面した窓から差し込む光。ハマスホイはこの部屋を気に入り、少なくとも15ヴァージョンの絵を制作しています。窓の右のドア。よく見るとドアノブがありません。他の絵ではドアノブが描かれていて実際はあったようです。自分が思い描いた世界を絵にするため実際の世界より、表現したいものを優先したハマスホイ。この陽光を描くのに、きっとドアノブはいらなかったのでしょう。

 

 

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(ヴィルヘルム・ハマスホイ「室内、蝋燭の明かり」1909 油彩/カンヴァス60.0×82.8cm)

 

  誰もいないテーブルに灯る蝋燭の火。この火そのものがここに座る二人の姿なのでしょう。ハマスホイとイーダでしょうか。

 

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(ヴィルヘルム・ハマスホイ「聖ペテロ聖堂」1906 油彩/カンヴァス133.0×118.0cm)

 

ハマスホイは風景画も残しています。こちらも人の姿はありません。近代化の波の中、変わり行く首都・コペンハーゲン。その中で変わらない歴史ある建造物。街への郷愁と変わりゆくことへの諦観を込めて、作品を制作していたようです。

 

 

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(ヴィルヘルム・ハマスホイ「カード・テーブルと鉢植えのある室内、ブレズゲーゼ25番地」1910-11 油彩/カンヴァス78.5×71.0cm)

 

  テーブルの上にはハマスホイの絵には珍しい植物の鉢植えがポツンとひとつ。直線で区切られた画面のなかで有機的な存在が際立ちます。奥行きのない奥の部屋。植物の存在を際立たせるために奥行きがなくなったようです。テーブルの脚も、左と右を比べると右奥が一本消えているのか、隠れているのか・・・

 

さて、展覧会はここまで。

出口を抜けてミュージアムショップへ。

 

(4) ミュージアムショップ

パンフレットの絵が表紙の図録を購入しました。  f:id:YoroCon:20200427001112j:image

 

3. さいごに

ハマスホイの絵画は無音の世界。それは時間の流れない世界。

時間の流れを閉じ込めることに成功した絵画は"完全なる絵画"と言えるかもしれません。

そして寂寥、寂寞とも違う世界。そこにはどこか穏やかさが残る「静謐」な世界。

デンマーク絵画とハマスホイを取り上げた展覧会は寒い冬の夜に、見た後に柔らかな温もりが残る展覧会だったと思います。

デンマーク絵画とハマスホイ。奥深く素敵な世界でした。

 

なお、本展覧会は以下の通り巡回します。

・山口県立美術館:2020/4/7(火)-6/7(日)

※ ただし、新型コロナウィルスの影響で5/10頃まで開幕延期。(4/27現在)

ハマスホイとデンマーク絵画|2020年4月7日(火)〜6月7日(日)|山口県立美術館

 

  今回のレポートは以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

また、次のレポートもよろしくお願いいたします。

 

※ ご意見、ご感想、大歓迎です。是非コメントかメール(yorocon46@gmail.com)まで。ツィッターは@yorocon46です。

 
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(美術館を出ての一枚。このまま真っ直ぐ帰りました。確か・・・)

 

【作品・その3】クロード・モネ「サン=ラザール駅」(1877) オルセー美術館(2020/4/19記述)

自称アート・リポーターこと、よろコンです。

 

  さて、今まで見てきた美術作品の中から、好きな作品をレポートしてコレクトするブログシリーズ。また、お付き合いただけますと幸いです。

 

  それでは、本日の作品はこちら。

 

クロード・モネ

「サン=ラザール駅」(1877)

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クロード・モネは睡蓮をはじめとし、数々の連作を残してきた画家です。

モネは1877年1月~4月にかけて当時過ごしていたアルジャントゥイユを一時離れ、パリに出てサン=ラザール駅にまつわる12の作品を残しています。これは1870年~1871年、普仏戦争を逃れロンドンで過ごしていた時、ターナーの作品に影響を受けたからとのこと。

上の写真はその中でもオルセー美術館に収蔵されている作品(75cm×105cm 油彩/カンヴァス。写真は絵ハガキを撮影)

汽車からの蒸気、雲、空、そして光がすべてのものを包み込み溶け合っていく。移ろいゆく時をも包み込んだような一枚。

 

サン=ラザール駅は1837年8月開業。パリで最も歴史のあるターミナルステーション。メトロの駅もあり、朝晩など、大変多くの人が行き交います。

2013年10月訪問時の様子はこちら。

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モネの絵の頃と同じ三角の屋根。列車の進行方向に見える建物は、モネの絵と変わらないような。

パリ旅行の際、ここから14・5分のところにあるホテルに滞在していたので、何回か、訪れてはモネの絵を思い出していました。ちなみに歩いて行けるところにギュスターヴ・モロー美術館もあります。

 

 

さて、連作の中のもう一枚が同じくパリのマルモッタン・モネ美術館に所蔵されています。

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「ヨーロッパ橋、サン=ラザール駅」(1877) ※2017年11月撮影

駅の構内から線路にかかる橋を描いています。機関車からの蒸気が絵に迫力をもたらし、先ほどの絵より力強さを感じますがいかがでしょうか?

 

  サン=ラザール駅にまつわる連作はこの他にロンドン・ナショナル・ギャラリーやシカゴ美術館にもありますが、日本のこちらの美術館にも1作品収蔵されています。

www.polamuseum.or.jp箱根のポーラ美術館。現在のコロナ禍が終息したら、是非、行きたいです。

 

  以下、関連リンクです。

 

  GoogleのArts & Culture から

artsandculture.google.com 

この作品もこの番組で紹介されています。

KIRIN~美の巨人たち~

 

  今年1月にリニューアルオープンした旧ブリヂストン美術館こと、アーティゾン美術館。2020年7月11日から開催予定(~10月25日)の「クロード・モネ-風景への問いかけ オルセー美術館・オランジュリー美術館 特別企画」のニュースを見たところ、このオルセーの「サン=ラザール駅」も日本にやってくるよう。

モネ展、今年7月に東京・アーティゾン美術館で開幕 – 美術展ナビ

 

そのころには、美術館を見に行ける状況になっていてほしいものです。

 

  クロード・モネの「サン=ラザール駅」。また見に行きたいなぁ・・・

 
ということで、ここまで、お読みいただき、ありがとうございました。

いかがでしたか?次の作品もお付き合いください。

 

  以上です。ではでは。

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(2017年11月訪問。パリのマルモッタン・モネ美術館。モネのコレクションが素晴らしく「印象・日の出」も所蔵しています)

 

【展覧会】ブダペスト ヨーロッパとハンガリーの美術400年@乃木坂・国立新美術館のレポート(2020/2/23訪問)

自称アート・リポーターこと、よろコンです。

 

※ 2020/4/16時点、重大事態宣言により東京は新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大を防ぐため、外出自粛の状況にあります。5/6まで多くの美術館が臨時閉館となっています。今回も過去に訪問した展覧会について、レポートします。

(本ブログでは既に完了した展覧会も含め、好きな展覧会をレポートしていきます)

 

今回は、今年(2020年)2月23日(日)に訪問した

 

[日本・ハンガリー外交関係開設150周年記念]

ブダペスト国立西洋美術館 & ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵

ブダペスト ヨーロッパとハンガリーの美術400年 @ 乃木坂・国立新美術館

 

です。

 

美術館への休館要請が出る前、最後に行った展覧会。この翌週から相次いで休館に。

ハンガリー美術?あまり見る機会はないですが、なかなか素晴らしい作品が集まってきました。最後までお読みいただけますと幸いです。

 

【目次】

 

※ 以下の記述は展覧会の解説、図録、パンフ、その他WEB上の資料を参照の上、記述しております。また、絵画の写真は購入した展覧会図録を撮影しています。

 

1. 展覧会概要

(1) どんな展覧会か

ブダペスト国立西洋美術館とハンガリー・ナショナル・ギャラリーはハンガリーの首都・ブダペストにドナウ川をはさんでそれぞれ建っています。


 

川の西側・ブダ地区はブダ王宮に位置するのがハンガリー・ナショナル・ギャラリー。

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川の東側・ペスト地区の英雄広場そばにあるのがブダペスト国立西洋美術館。

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(ブダペストはブダとペストに分かれていて、あわせてブダペストというとは知りませんでした)

 

ブダペスト国立西洋美術館は1906年にハンガリーを含むヨーロッパ美術を包括的に収蔵するために開館。ハプスブルグ帝国~オーストリア=ハンガリー二重帝国に至るまで、ハンガリー王国最大の大地主・貴族エステルハージ家のコレクションがベースになっているとのこと。エステルハージ家はあの音楽家・ハイドンを楽長に迎えるくらいの名家ですので、コレクションも素晴らしい。

その後、1957年にハンガリー美術専門の機関として開設されたのがハンガリー・ナショナル・ギャラリー。

2012年、再び、2館は1つの組織として統合され、ブダペスト国立西洋美術館は古代、中世~18世紀末までのヨーロッパ・ハンガリーを中心とした美術品を収蔵、ハンガリー・ナショナル・ギャラリーの方は19世紀以降のハンガリーを中心とした世界各国の美術品を展示・収蔵しているとのことです。

 

本展は昨年度、数多く開催された日本・オーストリア外交150周年の展覧会同様に日本・ハンガリー(オーストリア=ハンガリー二重帝国)の外交150周年を記念して「ドナウの真珠」と称えられるブダペストの珠玉の名品が集結する、そんな展覧会になっていました。

 

(2) 開催概要

 ・期間:2019/12/4(水) - 2020/3/16(月) ※ 新型コロナの影響で途中終了

 ・会場:国立新美術館(乃木坂・六本木)

 ・チケット:一般 1700円、大学生 1100円、高校生 700円

 ・作品数:130点

 ・写真撮影:NGでした 

 ・Webサイト:

(専用サイト)

ブダペスト国立西洋美術館&ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵 ブダペスト ― ヨーロッパとハンガリーの美術400年[日本・ハンガリー外交関係開設150周年記念]

※ 後述しますが、会場風景がアップされています。出展作品も確認できます。是非、見てみてください。

 

(国立新美術館のページ)

日本・ハンガリー外交関係開設150周年記念 ブダペスト国立西洋美術館 & ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵 ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年|企画展|展覧会|国立新美術館 THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO

 

(青山霊園側から美術館入口までの坂を上ります)
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(美術館の入り口前には吉岡徳仁さん作「ガラスの茶室-光庵」が来年2021/5/10(月)まで設置されています。2011年ヴェネチア・ビエンナーレ出展作)

 

(3) パンフレット

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(表面)


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(中・左面)

 

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(中・右面)


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(裏面)

 

(4) 行くきっかけ

チラシミュージアムでパンフレットの紫のドレスを着た女性の絵の鮮やかな色、自然の風景の中でひときわドレスアップされた姿のチョッとした違和感がとても気になり、実際に見にいこうと思いました。そのほかにもクラーナハ、エル・グレコ、モネやルノアールの作品もあるようなので、見に行って損はないかなぁという感じでした。

 

2. 展覧会の中へ

(1) 訪問日・混雑状況

訪問日:2019/2/23(日) 晴れ 15:40頃訪問。

鑑賞時間:約100分

混雑状況:人はいますが、混雑はしていませんでした。作品数もそれなりにありましたので、ゆっくり鑑賞してきました。

 

では美術館に入ります。

 

(2) 展覧会の構成

美術館が所有するルネッサンス以降のヨーロッパ絵画・彫刻のコレクションからハンガリー美術へと流れていきます。

 

I ルネッサンスから18世紀まで

  I-1. ドイツとネーデルラントの絵画

  I-2. イタリア絵画

      【聖母子】

      【聖書の主題】

      【ヴェネツィア共和国の絵画】

  I-3. 黄金時代のオランダ絵画

  I-4. スペイン絵画-黄金時代からゴヤまで

  I-5. ネーデルラントとイタリアの静物画

  I-6. 17-18世紀のヨーロッパの都市と風景

  I-7. 17-18世紀のハンガリー王国の絵画芸術

  I-8. 彫刻

 

II 19世紀・20世紀初頭

  II-1. ビーダー・マイヤー

  II-2. レアリスムー風景画と肖像画

  II-3. 戸外制作の絵画

  II-4. 自然主義

  II-5. 世紀末ー神話、寓意、象徴主義

  II-6. ポスト印象派

  II-7. 20世紀初頭の美術ー表現主義、構成主義、アール・デコ

 

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(目録の館内図)

 

それでは、作品を見て行きましょう。

 

(3) 気になる作品

本展覧会の会場の展示風景は以下のリンクで参照できます。作品を見ることもできます。是非、参照してみてください

会場風景|ブダペスト ― ヨーロッパとハンガリーの美術400年

 

  では、最初のルネッサンス以降のヨーロッパ絵画から。

会場に入って直ぐに現れるのはこの作品たち。

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(ルカス・クラーナハ(父)「不釣り合いなカップル 老人と若い女」1522)

 

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(ルカス・クラーナハ(父)「不釣り合いなカップル 老女と若い男」1520-1522頃)

 

  いきなりこの絵が並んでいます。

  若い女性に抱きつく老人、その老人の財布に手をやる女性。もう一方は、若い男に金を握らせる老女、冷ややかな目で肩に手を回す男。どちらも、戒めを込めた絵なのですが、今も昔も変わらぬ人の性(さが)を感じてしまいます。でも、老女と若い男の絵は、あまり見ることがない珍しい作品です。 

 

続いてはイタリア絵画から

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(ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「聖母子と聖パウロ」1540頃)

ティツィアーノの優しくも美しい聖母の姿に惹かれます。書物と剣は聖パウロであることを示していますが、古代ローマの兵士の格好であるのは絵の依頼主からの注文ではないかとのこと。キリストの持つリンゴは原罪、サンゴの首飾りは病気などからの護身を意味するようです。

 

次はスペイン絵画から。

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(エル・グレコ(本名ドメニコス・テオトコプーロス)「聖小ヤコブ(男性の頭部の習作)」1600頃)

素早い筆致で描かれたこの絵は下絵を描かず、直接、キャンバスに筆で書き始めているとのこと。49.5cm×42.5cmと大きな絵ではありませんが存在感があります。

 

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(フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス「カバリェーロ侯ホセ・アントニオの肖像」1807年)

ハンガリーはハプスブルク家つながりでスペインの絵画も充実しているようです。人気の肖像画家・ゴヤの作品。本作の侯爵は啓蒙主義の敵を公言し、陰謀好きで節操がない人物と人々から見られていたよう。ゴヤも好きな人物ではなかったが、肖像画を描かないと言える立場になかったようです。華やかな衣装に身を包むその顔は傲慢で少し嫌味な感じがしませんか?ちなみに侯爵の妻も評判が悪く、ゴヤの絵も「ぱっとしない容貌や内面の卑しさ」を隠さずに表現されているとのこと。こちらも見てみたい。

 

  今度は17~18世紀のハンガリー絵画から
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(シュミッデイ・ダーニエル「女男爵ハッレル・エルジェーベトの肖像」1755-1756頃)

画家はウィーンの美術アカデミーで学んだあと、ポジョニ(現スロヴァキア・ブラチスラヴァ)の女子修道院で素描の教師として働いていていました。この作品は卒業生をモデルに女子修道院のために描かれた肖像画の連作の一枚。女性の持つ絵筆やパレットは学生の頃、絵への才能と関心を持っていたからとか。

なお、ハンガリーの画家の名前は日本と同じ姓・名の順です。


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(フェリーチェ・スキアヴォーニ「お茶を入れる召使い」19世紀中頃)

こちらはイタリア。「ヴェネツィアのラファエロ」と称された画家は主に祭壇画や聖人の絵を描いていたとか。

 

この作品が展示されていたコーナーは「ビーダー・マイアー」。「ビーダー」=「従順な」、「マイアー」=「(ドイツのありきたりな姓)」。「とりたてて知的な活動に従事するわけでもない、まともで難のない従順な市民の好みをほのめかしている。」とは図録の解説から。ずいぶん辛辣な言い様ですが、ナポレオン戦争後、ヨーロッパ各地の革命が始まるまでの間、政治色を避けた穏やかな絵が市民権を得ていったそうです。

 

ところで、この、女性がお茶を注ぐ光景。窓からの光、地球儀・・・

なんだか、こちらの絵を思い出しませんか?

 

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(フェルメール「天文学者」1668 ルーブル美術館所蔵 ※2013年撮影。本展には出品されていません)

この学者の休憩中にお茶を入れているのかなぁ、と想像したら、ちょっと面白くないですか?(個人的な妄想です)

 

  さて、だいぶ脱線しましたので、本展の作品に。

続きましては
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(ムンカーチ・ミハーイ「本を読む女性」1880年代初頭)

ハンガリーを代表する画家のひとり。ムンカーチ・ミハーイは初期の頃、ハンガリーの主題に基づく農村や田舎の風俗を描いていたのですが、庇護者であったド・マルシェ男爵の若き未亡人セシル・パピエと1874年に結婚。パリに移ると上流社会の面々が集まるパーティや舞踏会に顔を出し、作風も買い手の要求に合わせて大画面に華々しい大衆的な主題を描くようになったとか。ここまでの話だけだと、あまり共感が持てなさそうですが・・・

1870年パリのサロンで金賞を受賞したということからも、絵の実力は高かったのだと思います。

 

そして、そのムンカーチと仲が良かったのが

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(ムンカーチ・ミハーイ「フランツ・リストの肖像」1886)

ハンガリー出身の大作曲家、ピアノの超人リスト。リストはムンカーチのために「ハンガリー狂詩曲第16番」(それほど有名ではない曲ですが)を作曲したほど。そしてこの肖像画が完成した数か月後にリストはこの世を去り、図らずもこれがリスト最後の肖像画となりました。

 

   続きましても、ハンガリーのアイコン的画家の作品。


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(シニェイ・メルシェ・パール「紫のドレスの婦人」1874)

 

まず、鮮やかな紫のドレスに目を奪われます。そして、そのドレスを身にまとった美しい女性。シニェイ・メルシェの奥様とか。黄色や白の花咲く野原に木陰。いずれも明るく鮮やかな色で美しい!のですが、野原の木陰に紫のドレスの女性?!なんだか不自然な取り合わせにも思えます。

こちらの作品、紫・緑・黄・白と補色を成す色の取り合わせで鮮やかさを演出。風景は戸外制作を目指し、構図は肖像画の伝統を踏まえているとのこと。さらに同時代の女性をフォーカスするのは当時の流行。新旧の様々な要素を総合して描かれているのです。

ところが、実際は戸外ではなくアトリエで描かれたとのこと。当時、批評家に評価が分かれ批判的な意見も。でも、一般の人からは愛された一枚とのことで、今では「ハンガリーのモナ・リザ」と呼ばれるほどに。良い絵です。

 

そして、もう一点。

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(シニェイ・メルシェ・パール「ヒバリ」1882)

こちらも明るく鮮やかな色が際立つ作品。透き通るような青い空。画面右上には小さなヒバリ。それを囲うように流れる雲。画面右下の若い女性がヒバリを見上げます。本当にきれいな色で、美しい絵です。が、よくよく考えると野原に裸の女性が寝そべってヒバリを見上げる?!ちょっと、不思議な光景。なぜ、裸。

 

シニェイ・メルシェは歴史主義から距離を置き、「現実の出来事の瞬時の印象を想起させるような、明るい陽光を感じさせる色彩を用いて何気ない状況を描くことを好んだ(図録より)」画家でした。ただ、この裸の女性は当時のブダペストでは大スキャンダルを起こしたようです。

 

  なお、図録に掲載されているシニェイ・メルシェのこちらの作品
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(シニェイ・メルシェ・パール「5月のピクニック」1873 ※図録から。本展での展示はありません)

「ハンガリー絵画に青空を見出した人」(図録から)

ハンガリー絵画に最も大きな影響を与えた画家で純粋な色のハーモニーをハンガリー絵画にもたらした人。この作品はその記念すべき一歩となるような作品とのことで、ご紹介まで。

シニェイ・メルシェ・パール。とても面白い画家だと思いました。また、是非、作品を見てみたいです。

 

  だいぶ、長くなりましたので、ここからは少し駆け足で。

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(ロツ・カーロイ「春-リッピヒ・イロナの肖像」1894)

色は抑え目ですが、白の基調に手に持つ花の赤がアクセント


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(フェレンツィ・カーロイ「小川 II」1907)

河原の石や草は点描にも見えます。脱いだ帽子と上着がのどか


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(チョーク・イシュトヴァーン「孤児」1961)

思い詰めているのか、少し疲れ気味の孤児の表情と窓から差し込む青い光。ランプの灯も印象的。


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(ジョール・ジョゼフ・ルフェーブル「オンディーヌ」1881年)

アングルの「泉」へのオマージュ。

 

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(チョントヴァーリ・コストカ・ティヴァダル「アテネの新月の夜、馬車での散策」1904)

新月なのに三日月?夜なのに白く光る壁。夜明け?微妙な馬の脚、人の顔・・・

そうです。彼こそはハンガリーのアンリ・ルソー?!

神から自分は世界で最も偉大な画家になるとのお告げを受けて画家になったとは自伝から。ハンガリーの天才はカルト的人気者だそうです。


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(リップル=ローナイ・ヨージェフ「赤ワインを飲む私の父とピアチェク伯父さん」1907)

ハンガリーのナビ。


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(ボルトニク・シャーンドル「6人の人物のコンポジション」1918)
ハンガリーのアヴァンギャルド。

 

さて、後半は駆け足でしたが展覧会はここまで。

出口を抜けてミュージアムショップへ。

 

(4) ミュージアムショップ

紫のドレスの婦人が表紙の図録を購入しました。 

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このほかに絵ハガキも購入です。

 

3. さいごに

今回の展覧会は他にもヨーロッパの名品、モネ、ルノワール、ドニの作品(各一点ずつ)もあるのですが、ハンガリー絵画のコレクションが秀逸で、見るべきものがありました。個人的にはシニェイ・メルシェ・パールが良かったですが、そのほかにも多数の素敵な作品が集まっていました。それぞれの国の美術館が持つ、それぞれの国の美術のコレクションはやはり力のある作品が多くて目を見張ります。

それにしても、ブダペスト。行ってみたい。

 

なお、本展覧会は巡回展はありません。

 

  今回のレポートは以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

また、次のレポートもよろしくお願いいたします。

 

※ ご意見、ご感想、大歓迎です。是非コメントかメール(yorocon46@gmail.com)まで。ツィッターは@yorocon46です。

 

(六本木ヒルズで咲いていたチューリップ。この日は風が強かった)

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【作品・その2】ピエール=オーギュスト・ルノワール「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」(1876) オルセー美術館(2017/11/7訪問、2020/4/10記述)

自称アート・リポーターこと、よろコンです。

 

  さて、今まで見てきた美術作品から、好きな作品をレポートしてコレクトするブログシリーズ。また、お付き合いただけますと幸いです。

 

  それでは、本日の作品はこちら。

 

ピエール=オーギュスト・ルノワール

「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」(1876)

  

f:id:YoroCon:20200409013750j:plain(オルセー美術館にて2017年11月7日撮影)

 

パリ・オルセー美術館の5階。印象派の作品が集まるフロアの中でもひときわ華やいだ光が溢れます。縦131.5cm×横176.5cm。ルノワールの最高傑作とも言われます。

 

1876年、ルノワール35歳の時に描かれたこの作品。翌1877年の第3回印象派展に出品され、画家仲間で絵画収集家でもあるカイユボットが購入しています。カイユボットの死後はフランス政府に寄贈され、このオルセー美術館へとたどり着きます。

 

作品のタイトルである「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」はフランス・モンマルトルにあったダンスホールの名前。ムーラン=風車、ギャレット=小麦の焼き菓子。1889年には同じモンマルトルにロートレックで有名なキャバレー「ムーラン・ルージュ(=赤い風車)」が開店しますが、この頃のモンマルトルには風車が多かったとか。

 

当時はナポレオン3世によるパリ改造計画の最中、貧しい労働者たちがパリ中心から追い出され、少し離れたところにあり地価も物価も安かったモンマルトルに流れます。同じように貧しい画家たちもモンマルトルに流れます。そして、舞踏会などが行われるダンスホールが作られていき、人々が集まってきます。

 

この作品を描いた頃のルノワールはモンマルトルでこのダンスホールの近くに住んでいて、ダンスホールを気に入り、通うようになります。後にはドガやゴッホも通うようになるようで、ゴッホの作品にもこのダンスホールは登場します。ルノワールはこの大きな作品を完成させるため、小さなキャンバスを持ち歩いて通い、スケッチを重ねたと言われます。

 

そして、この作品の中にはルノワールの友人たちが多く描かれています。

中央でこちらを向く黒い服の女性は女優のジャンヌ、

ジャンヌの前に座るストライプの服の女性はジャンヌの妹エステル、

エステルに話しかけるように後姿が描かれた男性は画家のフラン=ラミ、

フラン=ラミの右、テーブルをはさんでタバコを加える男性は画家のグヌート、

グヌートの右に座り、帽子を被ってジャンヌに目をやるのは批評家リヴィエール、

画面左側中段。姉妹の後ろでダンスをする二人。こちらを見ている黒い帽子の男性はキューバの画家カルデナル、一緒に踊っているピンクのドレスの女性は、当時ルノワールがお気に入りだったモデルのマルゴ。そのほか、背景で踊っている人々もルノワールの友人たちのようです。

 

私がこの絵を初めて見たのは1996年12月。初めての海外出張でパリを訪れ、3週間滞在したときのことでした。仕事とは言え、初めてのパリ。もう、週末にどこに行くかということしか考えていませんでした。そして、その時に絶対に見たいと思っていた作品の一つが、こちらです。

その後、時は流れて20年。2016年、国立新美術館で開催されたルノワール展にこの絵はやってきました。まさか日本でこの絵が見られるとは。もちろん見に行きました。そして、再び、オルセーへ・・・

 

キラキラとした光溢れるダンスホールに人が集まり、踊り、楽しんでいる。なんだか、流れる音楽、人々の笑い声も聞こえてきそうな感じがします。

「絵とは楽しく、きれいなものでなくてはいけない」

絵を見る人のすべてが幸せになってほしいと考えていたルノワールらしい、美しく、楽しく、そして幸せになれる一枚です。

 

 

  以下、関連リンクです。

  2016年に開催された国立新美術館の展覧会はこちら。

オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展|企画展|展覧会|国立新美術館 THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO

(画像はありませんが、当時の構成などがわかります)

 

  GoogleのArts & Culture というサイトから

artsandculture.google.com

こちらのサイト。いろいろな美術館の作品を確認できます。

オルセー美術館の作品はこちらからも

Musée d’Orsay, Paris, Paris, France — Google Arts & Culture

(ポンポンのシロクマもあります。ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会は何故かリンクの写真が小さめで探しにくい。見つけてみてください)

 

あと、この作品もこの番組で紹介されています。

KIRIN~美の巨人たち~

 

  ルノワールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」。いつかまた見に行きたいなぁ・・・

 

ということで、ここまで、お読みいただき、ありがとうございました。

いかがでしたか?また、次の作品もお付き合いください。

 

  以上です。ではでは。

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(オルセーの時計の裏から。遠くに見えるはモンマルトル、サクレ・クール寺院)

 

【展覧会】オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち@横浜・横浜美術館のレポート(2019/11/4訪問。2020/4/5記述)

自称アート・リポーターこと、よろコンです。

 

※ 2020/4/5時点、東京は新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大を防ぐため、外出自粛の状況にあります。今週末も多くの美術館が臨時閉館しています。今回も過去に訪問した展覧会について、レポートしたいと思います。

(本ブログでは既に完了した展覧会も含め、好きな展覧会をレポートしていきます)

 

今回は、昨年(2019年)11月4日に訪問した

 

オランジュリー美術館コレクション

ルノワールとパリに恋した12人の画家たち @ 横浜・横浜美術館

 

のレポートです。

2019年度、もっとも楽しみにしていた美術展の一つですので、お読みいただけますと幸いです。

 

【目次】

 

※ 以下の記述は展覧会の解説、図録、パンフ、その他WEB上の資料を参照の上、記述しております。また、絵画の写真は購入した展覧会図録を撮影しています。

 

1. 展覧会概要

(1) どんな展覧会か

オランジュリー美術館はパリ・セーヌ川沿い、チュイルリー公園にある美術館です。

チュイルリー公園を抜けるとルーブル、セーヌ川の対岸にはオルセーがあり、いずれも徒歩で行ける範囲です。ルーブル・オルセーと比較するとこじんまりとしていますがコレクションは大変素晴らしいです。むしろ、広すぎず、モネ、ルノワールをはじめとする印象派からセザンヌ、ピカソ、マティス、モディリアーニ、ドラン、ユトリロ等々の名品をまとめて見ることができる大好きな美術館の一つです。モネの睡蓮の大作を展示した部屋はあまりにも有名です。

ちなみにオランジュリーの名前の由来はチュイルリー宮殿のオレンジ温室だったから。モネの大作・睡蓮を修めるため美術館に整備されたとのこと。そんな、成り立ちも面白いですね。

こちらの美術館に収蔵されているのは「ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム コレクション」。ポール・ギヨームについては、またのちほど。

 

オランジュリー美術館が改修のため、21年ぶりに所蔵する絵画の半数近くが日本に来る大変貴重な展覧会になりました。

 

(2) 開催概要

 ・期間:2019/9/21(土) - 2020/1/13(月)

 ・会場:横浜美術館(横浜)

 ・チケット:一般 1700円、大学生・高校生 1200円、中学 700円

 ・作品数:69点+参考資料

 ・写真撮影:NGでした 

 ・Webサイト:

横浜美術館開館30周年記念 オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち | 開催中の展覧会・予告 | 展覧会 | 横浜美術館

 

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(美術館・外観)

 

(3) パンフレット

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(表面)

 

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(中・左面)

 

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(中・右面)

 

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(裏面)

 

(4) 行くきっかけ

「日経おとなのOFF」1月号の2019年展覧会特集で展覧会を知りました。先述のとおりパリでもいちばん好きな美術館の一つ。もう、これは行くしかない!ということで、とにかく展覧会の開催まで、待ち遠しかったです。

 

2. 展覧会の中へ

(1) 訪問日・混雑状況

訪問日:2019/11/4(月・振替休日) 晴れ 10:40頃訪問。この日は、11/2(土)にラグビーワールドカップ決勝を見た奥さまがそのまま横浜に滞在していたので、車で迎えに行くのに合わせて見てきました。横浜美術館には駐車場(有料)もあります。

鑑賞時間:約90分

混雑状況:混雑していました。特にチケット売り場は並んでいました。事前にネットで前売を購入していたので、会場には待たずに入れました。(混む美術展は事前にネットで購入していくのがおススメです)

 

では美術館に入ります。

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美術館ロビーにあったパネルを一周。

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(2) 展覧会の構成

今回、画家ごとに作品がまとめられていました。

 

順番は以下の通り。

(1) アルフレッド・シスレー(1839-1899)

(2) クロード・モネ(1840-1926)

(3) ポール・セザンヌ(1839-1906)

(4) アンリ・マティス(1869-1954)

(5) アンリ・ルソー(1844-1910)

(6) パブロ・ピカソ(1881-1973)

(7) オーギュスト・ルノワール(1841-1919)

(8) アメディオ・モディリアーニ1884-1920)

(9) アンドレ・ドラン(1880-1954)

(10) マリー・ローランサン(1883-1956)

(11) キース・ヴァン・ドンゲン1877-1968)

(12) モーリス・ユトリロ(1883-1955)

(13) シャイム・スーティン(1893-1943)

 

(目録の館内図)

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それでは、作品を見て行きましょう。

 

(3) 気になる作品

オランジュリーのコレクションを作り上げたポール・ギヨーム(1891-1934)。

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(ポール・ギヨームの写真)

 

  もともとは自動車修理工場の従業員でしたが、あるときタイヤの取引に使われるゴムの積荷の中からアフリカの彫刻を発見。これに大変な興味を持ったギヨームはアフリカ美術のコレクター・画商となり、当時のパリのアフリカ芸術ブームをけん引する一人となります。やがて、モンマルトルに移り住み、そこで詩人ギヨーム・アポリネールと出会います。この出会いが、ギヨームとパリの画家たちをつなぐきっかけとなり、アポリネールのアドバイスを受けながら、ギヨームのコレクションは成長していきます。

 

  ところが、ギヨームは42歳の若さで亡くなってしまいます。そして、このコレクションを引き継いだのが妻のジュリエット・ラカーズ、通称ドメニカ。

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(左がドメニカ、真ん中はポール・ギヨーム、右は元フランス首相のアルベール・サロー)

こちら、地位と財産を守るために夫、愛人を操り、数々のスキャンダルを巻き起こしたかなりのお方で、あだ名は「雌カマキリ」。ギヨームの死後、有名な建築家ジャン・ヴァルテルと再婚。よってコレクション名も「ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨームコレクション」になりました。

悪女として名高いドメニカですが、ドメニカの意見があったからこそ、より質の高いコレクションになったとも。稀代の画商、有名建築家を夫に持った彼女はいろいろな意味で見る「眼」があったということでしょうね。

 

  いろいろな画家が描いた夫妻の肖像画です。

 

ポール・ギヨームから

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(アメディオ・モディリアーニ「新しき水先案内人ポール・ギヨームの肖像」1915年)

ギヨームはまだ無名のモディリアーニのためモンマルトルの「洗濯船」にアトリエを借りて支援します。やがて仲たがいをしてしまいますが、その後もモディリアーニの作品は購入していたようです。

 

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(アンドレ・ドラン「ポール・ギヨームの肖像」1919)

ドランもギヨームと長年契約をしてた画家で、本展でも多数のドランの作品が展示されていました。

 

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(キース・ヴァン・ドンゲン「ポール・ギヨームの肖像」1930頃)

キース・ヴァン・ドンゲンはオランダ生まれの画家で1912年からモンパルナスに居住します。胸の赤い線はレジオン・ド・ヌール勲章の赤いリボンとのことで、画家のサインが同じ高さにあることから視線がリボンにいくように仕掛けられているとか。なかなかの自己顕示欲ですね。

 

さて、続いては妻のドメニカ。

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(アンドレ・ドラン「大きな帽子を被るポール・ギヨーム夫人の肖像」1928-1929)

なかなか目力のある顔立ち。きれいですが、やり手な感じがします。この絵はとてもモデルの特徴を捉えた絵とのこと。この絵に本性が表れているとしたら、みなさん、どう感じられますか?

 

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(マリー・ローランサン「ポール・ギヨーム夫人の肖像」1924-1928)

マリー・ローランサンが描く肖像画はパリでも人気があったとのこと。ドメニカは名声と富の象徴としてローランサンに肖像画を依頼したような。ドランの絵と違い、かなり毒々しさがなくなっています。

 

  さて、それでは、それ以外の作品も。
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(アルフレッド・シスレー「モンビュイソンからルヴシエンヌへの道」1875)

シスレーらしい落ち着いた、空がきれいな作品です。


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(クロード・モネ「アルジャントゥイユ」1875)

アルジャントゥイユはパリから北西に約10km。セーヌ川右岸の町で鉄道が通ったことで印象派の画家も多く訪れたそうです。水面に写る舟。きらきらと光が反射しているかのようで美しい作品です。

 

 

 続いてセザンヌ。

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(ポール・セザンヌ「セザンヌ夫人の肖像」1890頃)

 

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(ポール・セザンヌ「わらひもを巻いた壺、砂糖壺、りんご」1890-1893)

塗り残しのある肖像画、机との位置関係が崩れた静物画。セザンヌらしいと感じる絵でした。この静物画、もうキュビズムです。

 

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(アンリ・マティス「ヴァイオリンを持つ女」1921-1922頃)

青い壁に赤い床。白と緑の服とそれぞれの色彩が際立つ作品。

 

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(アンリ・ルソー「人形を持った子ども」1892年)

天才ルソーの描く子どもはどう見てもおじさん?!髭の剃り残し?!人形もかわいくない?!

こちら、2014年六本木ヒルズ森アーツセンターギャラリーで開催されたこども展でも展示されていました。そもそもこども展はオランジュリー美術館で2009-2010年に開催された展覧会がもとになっているとのこと。この絵を、また日本で見るとは、縁があります。

 

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(パブロ・ピカソ「白い帽子の女」1921)

ポール・ギヨームはキュビズムに深い理解を示し、多くの作品を購入ましたが、ドメニカはあまりキュビズムが好きではなかったようで、ピカソのキュビズム的な作品は大半を売ってしまったようです。

 

そして、いよいよルノワールの部屋へ。

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(オーギュスト・ルノワール「ピアノを弾く少女たち」1892頃)

オルセーに同様の構図で背景も描きこまれた絵があります。こちらの絵は油彩によるスケッチのようで晩年まで画家のアトリエにあったとのこと。ただ、細部まで描きこまれていない背景が逆に少女たちにスポットライトを与えた効果となり、二人の和やかな雰囲気がより伝わってくるようです。大変好きな作品です。

 

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(オーギュスト・ルノワール「ピアノを弾くイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロイ」1897-1898頃)

同じような構図ですが、こちらは具体的なモデルを描いた作品。背景にドガの競馬、バレリーナの絵が。

 

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(オーギュスト・ルノワール「桟敷席の花束」1878-1880頃)

コートールド美術館展では桟敷席を描いた作品がありましたが、こちらはそこに置かれた花束。これだけを描くということで、なんだかそこに隠されたドラマがありそうです。

 

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(オーギュスト・ルノワール「花束」1900年頃)

同じく花束の絵。こちらは赤が多く、とても華やかな感じがします。

 

さて、ここでポール・ギヨームの資料コーナー。部屋を再現したミニチュアがあり、撮影可能でした。こんな感じです。

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本当に部屋に来たように感じませんか?面白い企画でした。

 

 

それでは続けて作品に。ドランです。

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(アンドレ・ドラン「座る画家の姪」1931)

こちらの絵を初めてオランジュリー美術館で見て、オランジュリーの中でも特に好きな作品になりました。何気ない姿に何かを思う、または何も思っていない、そんな微妙で繊細な気持ちが表現されているように思います。日本で見られるとは感激です。

 

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(アンドレ・ドラン「黒い背景のバラ」1932)

本展ではルノワール以上に多くの作品がきたドラン。フォーヴの画家でしたが後に古典主義に回帰します。黒を背景にバラを際立たせる。とても鮮明な一枚でした。

 

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(マリー・ローランサン「マドモアゼル・シャネルの肖像」1923)

モデルはファッション・デザイナーの"あの"ココ・シャネル。ローランサンとは同じ年生まれとか。シャネルはこの絵を気に入らなかったようで受け取りを拒否します。そのときのローランサンの言葉

「シャネルは有能だけれど、オーヴェルニュの田舎娘よ。あんな田舎娘に折れてやろうとは思わないわ」

女性同士の戦いは怖いですね・・・

 

次はユトリロ。

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(モーリス・ユトリロ「クリニャンクールの教会」1913-1915)

 

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(モーリス・ユトリロ「サン=ピエール教会」1914)

「白の時代」のユトリロ。どんよりとした空の下、白い建物。モンマルトルの雰囲気が伝わってきます。

 

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(シャイム・スーティン「聖歌隊の少年」1927-1928頃)

最後はスーティンです。揺らめく絵は力強く、激しく炎のよう。

スーティンの作品はアメリカのコレクター・バーンズが大量に購入しているようです。現在、バーンズ・コレクションには多数のスーティン作品が所蔵されているとか。いち早くスーティンを見出したのはポール・ギヨームだったようです。

 

展覧会はここまで。出口を抜けてミュージアムショップへ。

 

(4) ミュージアムショップ

今回も、迷わずに図録を購入しました。 

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このほかに絵ハガキも購入。図録購入者の先着順でルノアールの絵ハガキが1枚プレゼントに。こ午前中に行っていたので、これもゲット。たまには早く行ってみるもんですね。

 

3. さいごに

今回の展覧会は印象派もありますが、フォーヴ、エコール・ド・パリの画家たち等、幅広い作品が集まっていたと思います。やっぱり、オランジュリー美術館は好きだなぁ、あらためてパリに思いを馳せる展覧会だったと思います。

なお、本展覧会は巡回展はありません。

 

  今回のレポートは以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

また、次のレポートもよろしくお願いいたします。

 

※ ご意見、ご感想、大歓迎です。是非コメントかメール(yorocon46@gmail.com)まで。ツィッターは@yorocon46です。

 

【作品・その1】フランソワ・ポンポン「シロクマ」(1922) オルセー美術館(2017/11/7訪問、2020/4/2記述)

自称アート・リポーターこと、よろコンです。

 

  さて、今回は、これまで見てきた美術作品から、私が好きな作品についてレポートしていきたいと思います。お付き合いただけますと幸いです。

 

  それでは、本日の作品はこちら。

 

フランソワ・ポンポン作

「シロクマ」(1922)

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パリ・オルセー美術館。一階奥にあるカフェの前でその雄姿を目にすることができます。

今にも動きだしそうな白熊。

悠然としつつも、少しとぼけた感じの愛らしい顔。

滑らかな白い曲面がシロクマを包む柔らかな毛を再現します。

進行方向に伸びた首。地面を力強く蹴った後ろ足は、今まさにシロクマが目の前を悠々と歩いているかのようです。

 

作者フランソワ・ポンポンは1855年にフランス・ブルゴーニュ地方の町・ソーリューに生まれました。お父さんは家具職人や仕立て屋をしていたようです。

20歳で彫刻家を目指してパリに出ると、いろいろな彫刻家の工房に入ります。あのロダンの工房では、人物像の制作にも携わっていました。

1906年ごろからは動物をモチーフとした作品を作成するようになり、1922年ポンポン67歳の時に自身の代表作となるこのシロクマを作成しました。そして1933年に亡くなるまで数多くの動物彫刻を残しています。

(館林美術館のWebサイト、Wikipedia参照)

 

この写真は2017年11月7日にオルセー美術館に行ったときに撮影したものです。

テレビ東京の番組「美の巨人たち」で、この白熊を取り上げていた回(2017年1月28日放送のようです)を見て「次にパリに行ったら、ぜひとも本物を見てみたい」という思いにとらわれました。そして、この年の秋にパリに旅行し、見て来た時の写真です。このときのオルセー訪問の最大の目的は、このシロクマでした。

(でも、これ以前にオルセーは訪れたことがあり、そのときも見ていたとは思うのですが、実はあんまり記憶に残っていませんでした)

 

美術館に入り、作品を鑑賞しながら歩いて、少し疲れたなと思ったころ、この像が姿を現しました。見てのとおり、本当のシロクマと同じくらいの大きな像です。

カフェが目の前でしたので、コーヒーを飲みながら、ゆっくりとこの像を眺めていたのを思い出します。

 

コーヒーを飲んだ後は、シロクマのまわりをぐるぐると。

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シロクマの毛は一本も掘っていないのに、その滑らかな曲線、曲面で毛の柔らかさが伝わる。極限まで無駄を削ぎ落した単純なフォルムで、よりリアルな世界を表現する。この革新的な作品を67歳の時に作り上げたポンポンはすごい作家だと思います。いつまで見てても、飽きない作品です。

 

 

ちなみに、ポンポンにスポットライトをあてた美術館に、群馬県立館林美術館があります。

群馬県立館林美術館_フランソワ・ポンポンについて

こちらにはポンポンのアトリエを再現した別館や、小さなシロクマの作品が展示されています。

一度、訪れたことがありますが、のどかな自然の中のとてもきれいな美術館です。

 

あと、この作品を見に行くきっかけを与えてくれた番組のページはこちら。

KIRIN~美の巨人たち~

 

  ポンポンのシロクマ。いつかまた見に行きたいなぁ・・・

 

ということで、ここまで、お読みいただき、ありがとうございました。

いかがでしたか?また、次の作品のときもお付き合いください。

 

  以上です。ではでは。

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【展覧会】コートールド美術館展 魅惑の印象派@上野・東京都美術館のレポート(2019/11/1訪問。2020/3/29記述)

自称アート・リポーターこと、よろコンです。

 

※ 2020/3/29時点、東京は新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大を防ぐため、外出自粛の状況にあります。今週末も多くの美術館が臨時閉館しています。今回は過去に訪問した展覧会について、レポートしたいと思います。

(本ブログでは今後も既に完了した展覧会も含め、好きな展覧会についてレポートしていく予定です)

 

今回は、昨年(2019年)11月1日に訪問した

 

コートールド美術館展 魅惑の印象派 @ 上野・東京都美術館

 

のレポートです。

既に東京展は終了していますが、2019年度、もっとも印象に残った美術展の一つですので、お読みいただけますと幸いです。

 

【目次】

 

※ 以下の記述は展覧会の解説、図録、パンフ、その他WEB上の資料を参照の上、記述しております。また、絵画の写真は購入した展覧会図録を撮影しています。

 

1. 展覧会概要

(1) どんな展覧会か

コートールド美術館は繊維業(人口絹=レーヨン)で財を成したイギリスの実業家サミュエル・コートールド(1876-1947)のコレクションをベースに設立された美術館です。 

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(サミュエル・コートールド)

 

サミュエル・コートールドは優れた実業家であるとともに優れた審美眼を持つコレクターでもありました。また、妻・エリザベスも芸術への情熱を分かち合い、コレクション形成に大きな影響を与えました。

コートールドは、まだイギリス国内で評価の定まっていない印象派・ポスト印象派の作品を収集します。そして、個人の楽しみのためだけではなく、自らのコレクションがすべての人々の共有する財産となることを望み、国の美術作品購入のための基金を設立したりします。それは、芸術にはすべての人々や国々を結びつける力があるという信念に基づくものでもありました。

美術館は1932年にロンドン大学付属のコートールド美術研究所の美術館として開館。1989年にロンドンの中心、サマセット・ハウスへと移り、現在に至ります。

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(ロンドンのサマセット・ハウス)

 

本展は、ロンドンの美術館改修工事のため実現した名作を直接日本で鑑賞できる貴重な機会となりました。

 

(2) 開催概要(東京展)

 ・期間:2019/9/10(火) - 12/15(日)

 ・会場:東京都美術館(上野)

 ・チケット:一般 1600円、大学生・専門学校生 1300円、高校生 800円、65歳以上 1000円

 ・写真撮影:NGでした 

 ・Webサイト:

courtauld.jp

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(上野公園内の案内)


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(美術館・外観)

 

(3) パンフレット

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(表面・見開き)

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(中・左面)

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(中・右面)

 

(4) 行くきっかけ

「日経おとなのOFF」1月号の2019年展覧会特集で展覧会を知り、印象派のコレクション展ということで、行くことは即決でした。

 

2. 展覧会の中へ

(1) 訪問日・混雑状況

訪問日:2019/11/1(金) 晴れ 14:40頃訪問。会社は午後半休を取って行きました。

鑑賞時間:約90分

作品数:60点+参考資料(手紙や当時世相を映す雑誌の図版など)

混雑状況:人は多かったですが、平日午後でしたので並ぶことはありませんでした。

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(会場入り口)

 

(2) 展覧会の構成

1. 画家の言葉から読み解く

  画家の手紙などに残された言葉から、画家が作品に込めた思いを読み解きます。展示会場内では「収集家の眼」として、コートールドのコレクションでもっとも多いポール・セザンヌの作品を集めたコーナーがあります。

 

2. 時代背景から読み解く

  産業化が急速に進んだ19世紀フランスで新たな風景となった工場や鉄道、「パリ大改造」の結果、生み出されたパリの都市生活。そんな新しい時代を反映した絵画のコーナーです。「収集家の眼」はピエール=オーギュスト・ルノワールです。

 

3. 素材・技法から読み解く

  芸術家たちの用いた素材や技法。コートールド美術館ではX線、赤外線等での科学的調査も行われているとのこと。19世紀の画家たちが生み出した新しい表現を素材・技法を切り口に迫ります。ポスト印象派の作品が中心のコーナーです。「収集家の眼」はポール・ゴーガンです。

 

(3) 気になる作品

まずは「1. 画家の言葉から読み解く」からの作品です。

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(ジェームズ・アボット・マクニール・ホイッスラー「少女と桜」1867-1872 )

1855年にアメリカからパリに渡ったホイッスラーはのちにロンドンを主に活動します。桜や画面右端に描かれた和傘は日本美術からの影響でしょうか。可憐な作品だと思います。

 

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(フィンセント・ファン・ゴッホ「花咲く桃ノ木」1889)

アルルでのゴーガンとの共同生活は2か月で破綻。そして、耳切り事件に・・・

のちにサン=レミの療養院に入院しますが、その前にアルル郊外で最後に描いた風景とのこと。桃の花、右奥に見える雪を頂く山は富士山?!ゴッホの日本趣味をうかがわせる作品です。

 

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(クロード・モネ「アンティーブ」1888)

1888年1月半ばから滞在した南仏・アンティーブで手掛けた38作品のうちの1枚。近景の中央に大きく描かれた木に浮世絵の影響がありや、なしや。このとき、モネがロダンに宛てた手紙には「私は、太陽と刃を交え闘っています。この地の太陽は、なんて太陽だ!黄金と宝石で描かなければならないのです」という言葉が。画家の光との「格闘」がうかがえます。

 

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(クロード・モネ「花瓶」1881着手)

「制作したばかりの大きな花の絵を放棄した」

モネが制作後、画商に宛てた手紙の一節。この絵は制作・放棄が繰り返された作品のようで80歳になった1920年頃にようやくサインされたようです。個人的には明るく華やかで軽やかさ、みずみずしさのあるこの絵が好きです。

 

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(ポール・セザンヌ「カード遊びをする人」1892-1896頃)

コートールドはセザンヌが大好きだったようで、コレクション内でも、もっとも多くの作品を収集しているとのこと。本展でも60点中9点がセザンヌ。初めてセザンヌを見たときの言葉「その瞬間、私は魔術を感じ、それ以来ずっとこの画家の魔術にかかったように感じている」

展覧会場ではこの絵の細かい解説もあり、机が傾いている点、腿が長く描かれ正確性より画面全体の調和が優先されているようなことに気づかされます。

 

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(ポール・セザンヌ「キューピッドの石膏像のある静物」1894頃)

コートールドが最初に購入したセザンヌ作品とのこと。机の位置に対して極度に傾いた床、遠近感を無視した奥のリンゴ、テーブルクロスなのかキャンバスを覆っているのか分からない青い布。布に包まれたリンゴの位置も不自然。キャンバスから飛び出したようにも見えるキューピッド。よく見ると不自然、でもなんか微妙に調和したような静物画。コートールドは早くからセザンヌの魅力を理解していたようです。(私が理解するにはもう少し時間がかかるかも)

 

続いて「2. 時代背景から読み解く」から

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(ピエール=オーギュスト・ルノワール「桟敷席」1874年)

こちらも展覧会場では詳細な解説がなされています。男性はルノワールの弟・エドモン、女性は当時ルノワールのお気に入りのモデルであったニニ・ロペスとのこと。第1回印象派展に出品された作品です。劇場の桟敷席は正に新しい時代の風景。男は劇を見ずに何を見ているのでしょう。そして、女も劇を見ず、誰にポーズをとっているのでしょう。当時の桟敷席で繰り広げられるドラマがうかがえます。

 

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(エドガード・ドガ「舞台上の二人の踊り子」1874年)

ドガの作品から上演作がわかるものは少ないようですが、こちらは衣装などからモーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」の幕間に上演される「バラの踊り」ではないかとのこと。果たして本番なのかリハーサルなのか。踊り子を下から照らす人工照明がこの時代の新しさを表現しています。

 

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(エドゥアール・マネ「フォーリー=ベルジェールのバー」1882)

96×130cmと比較的大きな絵です。マネ晩年の大作。こちらも展覧会場では詳細な解説があります。

手前の静物は緻密に、奥の鏡に映った人々は荒いタッチで描かれています。右寄りに描かれた鏡の中の彼女の姿と霞むように見える向き合う男。

こちらに向かった彼女の表情は精緻に、そして無表情で悲しげにも・・・

いろいろなことを考えさせられる、美しく、ドラマ性のある一枚。今回の展覧会の目玉であり、いちばん魅了された絵でした。

 

最後は「3. 素材・技法から読み解く」から

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(アメデオ・モディリアーニ「裸婦」1916)

モディリアーニの裸婦像は最近、特に人気があるようです。本作はX線などの調査で顔の描き方、体の描き方が異なり、体はうろこのような筆を押し付けた筆致で、顔は細い筆で滑らかに、髪はひっかいて線を描くといった描き分けがなされているとのこと。画家のさまざまな試みが結実した一枚です。

 

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(ポール・ゴーガン「ネヴァーモア」1897年)

こちらも、展覧会場では詳細な解説があります。タイトルは「二度とない」の意味の英語でエドガー・アラン・ポーの詩「大鴉」から着想されているとのこと。恋人を失った主人公のもとに姿を現した大カラスが「ネヴァーモア」と繰り返す詩。ただし、ゴーガンは窓辺の鳥をカラスではなく「悪魔の鳥」と呼び、詩との関係を否定していたようです。

 

・・・そして、出口に。そこには写真撮影エリアも。

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(4) ミュージアムショップ

今回は、迷わずに図録を購入しました。 f:id:YoroCon:20200329195639j:image

展覧会の作品の詳細な解説は、本図録内にも収められています。透明なフィルムの解説ページを作品に重ねることで、展覧会でみた解説を上手に再現しています。お薦めの一冊。

この他、絵ハガキもありますので、気に入った作品の絵ハガキを購入されてはいかがでしょうか。私は「桟敷席」「フォーリー=ベルジェールのバー」を購入しました。

 

3. さいごに

これまでご紹介した作品のほかにも

ブーダン、シスレー、ロートレック、ボナール、ルソー 等々

全体の作品数は多くないものの、名作ぞろいで、どれをとっても見に来てよかったと思えます。中でも、私にとっては 「フォーリー=ベルジェールのバー」は、生で見たからこそ、その絵の持つ力に魅了される、そんな素敵な経験ができたと思います。また、いつかロンドンに行くことがあったら、是非とも訪れたい美術館だと思います。

 

それでは最後に巡回情報です。

・愛知展@愛知県美術館:2020/1/3-3/15 ※ ただし3/1にて終了

・神戸展@神戸市立美術館:2020/3/28-6/21 ※ ただし開始時期延期中(3/29時点)

※ 新型コロナウィルスの影響によるものです。早く終息して、また展覧会を楽しめる日が来るのが楽しみにしています。そのためにも、今は我慢の時期。みんなで乗り切りましょう。

 

  今回のレポートは以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

また、次のレポートもよろしくお願いいたします。

 

※ ご意見、ご感想、大歓迎です。是非コメントかメール(yorocon46@gmail.com)まで。