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【展覧会】浮世絵風景画 広重・清親・巴水 三世代の眼@町田・町田市立国際版画美術館のレポート(2021/8/9訪問)

ただの美術好き、よろコンです。

 

本ブログでは過去に見た展覧会も含め、気になる展覧会をレポートしていきます。

 

今回は、8月の3連休の最終日2021/8/9(月)に訪問しましたこちらの展覧会から

 

浮世絵風景画  広重清親巴水 三世代の眼 @ 町田・町田市国際版画美術館

 

です。

 

今年は風景画の展覧会が多いように思います。

府中市美術館「映えるNIPPON~」、SOMPO美術館「風景画のはじまり」、そして今回。日本が誇る浮世絵、その中でも風景画で名をはせた絵師

江戸・歌川広重(1797-1858)、明治・小林清親(1847-1915)、大正~昭和・川瀬巴水(1883-1957)の三人「広重」にフォーカスした展覧会です。

町田国際版画美術館は世界的に見ても珍しい版画専門の美術館。同時開催のミニ企画展「浮世絵モダーン」にもさいごに少し触れたいと思います。

 

今回も、最後まで、お読みいただけますと幸いです。

 

【目次】

 

※ 以下の記述は展覧会内の説明、パンフ、図録、その他WEB上の資料などの説明を参照の上、記述しております。なお、作品の写真はすべてパンフと当日美術館で撮影可能だった作品を撮影しています。

 

1. 展覧会概要

(1) どんな展覧会か

さて、三人の「広重」ですが・・・

・江戸:歌川広重(1797-1858)

   一般の町民にまで旅行への関心が高まった江戸後期。天保年間(1830-1844)初頭に舶来の「ベロ藍」(プルシアン・ブルー)を駆使して葛飾北斎が「富嶽三十六景」を描くとこれが人気に。役者絵、美人画に続き「名所絵」というジャンルが流行していきます。そして、その名所絵の世界に参入してきたのが広重です。北斎同様、ベロ藍を駆使。最先端の透視図法に空気遠近法、色彩の遠近法を使いながら季節・天気も絵に織り交ぜ、名所絵の第一人者となっていきます。

 

・明治・小林清親(1847-1915)

  「明治の広重」こと清親。ガス灯、ランプ、洋風建築。幕末の動乱を経て、新しい文化が風景の中に取り込まれていった明治。清親はこの明治の風景を「光線画」と呼ばれる手法で描いていきます。浮世絵にはない近代性を求め、陰影に銅版画のクロスハッチング(縦横の線で陰影を表す技法)を参考にしたと思われる作品も。写真の登場により、メディアとしての役割を終えようとする浮世絵にあって絵師の視点から等身大の風景を描こうとした清親。そんな清親が最後、拠り所としたのは、広重の名所絵でした。

 

・大正~昭和:川瀬巴水(1883-1957)

「昭和の広重」こと巴水。歌川派の系列で日本画家の鏑木清方の弟子。その巴水が熱心に取り組んだのが、浮世絵商・渡邊庄三郎が版元となり、浮世絵の伝統を引き継ぎながら新しい時代の創作性を重視した「新版画

明治20年代から30年代、美的評価の定着した名所を描くのではなく、画家の主観で選ばれた無名の風景が描かれることが風景画の主流に。巴水もこの流れの中で自らが感銘を受けた風景を選び、描き続けました。そんな巴水は「昭和の広重」と評されたとき、自分は清親の方が好きと答えたとか。

 

一人一人は師弟関係などもなく、直接的につながりのない三人。でも、風景を切り取る眼にはどこか通じるものが。時を超え、場所を超え、三人の風景画の眼を通して東京中をそして日本中を旅して廻る。そんな展覧会です。

 

(2) 開催概要

 ・期間:2021/7/10(土) - 2021/9/12(日) ※8/9(月)まで前期。8/12(木)から後期展示で全点入替とのこと(目録から)

 ・時間:平日10:00 - 17:00、土日祝10:00 - 17:30 ※ 事前予約不要

 ・休館日:月曜日(8/9(月)は祝日のため開館。8/11(火)が休館に)

 ・会場:町田市立国際版画美術館(町田)

    ※ JR・小田急の町田駅から徒歩15分。会期中は土日祝+7/28、8/25のシルバーデーは町田駅から無料送迎バスあり。美術館の入口に有料の駐車場、歩いて5分くらいのところに無料の第二駐車場があります。私は家から車で行きました。

 ・チケット:一般900円、高校・大学生450円、中学生以下無料、シルバーデー(7/28、8/25)は65歳以上無料  ※ 半券提示でリピーター割適用、200円引き

 ・作品数:目録からですが、広重66点、清親60点、巴水62点の計188点(数え間違えてたらご容赦。これくらいの点数、展示されています)

 ・写真撮影:一部OKですが、大半はNGなので、撮影時は撮影可能か、よく確認してください。

 ・Webサイト

hanga-museum.jp

(美術館サイト)

町田市立国際版画美術館

 

(美術館の敷地に入っていきます)

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(奥には緑が広がります)

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(3) パンフレット

(表面)

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(裏面)
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(4) 行くきっかけ

アートスケープで展覧会のチェックをしているときに見つけました。

前回は昨年の秋に開催された浮世絵・美人画の展覧会の時に来ています。府中美術館で同じく広重・清親・巴水の作品を見ましたので、こちらの展覧会にも行こうと決めました。

artscape.jp 

2. 展覧会の中へ

(1) 訪問日・混雑状況

訪問日:2021/8/9(月) 晴れでしたが雲も多く、時おり天気雨。14:50頃入館

鑑賞時間:約90分+ミニ展示20分

混雑状況:人は多かったですが混雑まではしていませんでした。ゆっくり見られます。会期末は人が増えるかもしれませんね。

 

では、いよいよ展覧会場に。

 

f:id:YoroCon:20210815153941j:image(一階でチケットを買って二階の展示室へ)

 

(2) 展覧会の構成と気になる作品 

展覧会の構成は次のとおりです。

 

・1章 江戸から東京へ - 三世代の眼 -

 

・2章 歌川広重 - 江戸の名所絵 -

    2章1節 東海道の絵師、広重

    2章2節 さまざまな江戸名所絵

    2章3節 竪絵の新視覚

 

・3章 小林清親 - 明治の光線画 -

    3章1節 新しい風景、新しい暮らし

    3章2節 天候・時刻のうつろい

    3章3節 江戸浮世絵への回帰

 

・4章 川瀬巴水 -大正・昭和の新版画 -

    4章1節 東京風景 - 自然と伝統への同化

    4章2節 旅行と風景 - 浪漫への誘い

 

です。

 

ということで、気になる作品をご紹介。

 

最初は

「1章 江戸から東京へ - 三世代の眼 -」

 

  こちらは広重・清親・巴水が同じ場所を描いた作品を並べて展示しています。

それぞれの画家の「眼」を通じた風景を比べて見られる、粋な展示になっています。

このコーナーはすべて写真撮影OKでした。

 

その中からまず選んだのはこちら

「芝増上寺」

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歌川広重 「東都名所 芝増上寺雪中ノ図」 天保(1833-40)末期


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小林清親「武蔵百景之内 芝増上寺雪中」 明治17(1884)年


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川瀬巴水 「東京二十景 芝増上寺」 大正14(1925)年

 

  いずれも雪の増上寺を描いたもの。しんしんと降る広重の雪。清親は雪が上がったあとでしょうか。風雪に向かい歩く巴水の女性。同じ雪景色もそれぞれの絵師で雪の描き方の違いが、絵から伝わる印象の違いにつながっていきます。

 

  次は

「亀戸天神」

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歌川広重 「名所江戸百景 亀戸天神境内」 安政3(1856)年


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小林清親 「武蔵百景之内 亀井戸天満宮」 明治17(1884)年


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川瀬巴水 「亀戸の藤」 昭和7(1932)年

 

  こちらも3人が描いた亀戸天神の藤と太鼓橋。広重は水面をかすめる燕が印象的。清親は絡み合う藤の幹を含め、広重へのオマージュのような構図。そして巴水の藤はより華やかに。二人との違いが際立ちます。

 

  同じ舞台でも描く絵師により、こんなにも印象が異なる。三人の個性が際立つように見えます。でも、この場所を選んで描いたということは、清親も巴水も、きっと広重を意識したのではないでしょうか?そんな気がしました。

 

次は

「2章 歌川広重 - 江戸の名所絵 -」

から2点

 

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歌川広重「東都名所 吉原仲ノ町夜桜」 天保(1830-44)前期

 

二点透視図法でより立体的に描かれた作品


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歌川広重「名所江戸百景 深川万年橋」 安政3(1857)年

 

近景をどアップで描き、対象物の向こうに遠景を描く。錦絵揃物として画帖や冊子として売り出すのが流行った江戸末期。横絵から竪絵。ヨコからタテへとフレームが変わることで編み出された広重の遠近法。広重の代名詞ともいえる構図の革新です。

 

そして時は明治

「3章 小林清親 - 明治の光線画 -」

からも2点

 

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小林清親 「海運橋 第一銀行雪中」 明治9-10(1876-77)年

 

明治・洋風建築という新しい風景を描いた一枚。新しいものを絵に描き入れていくところがガス灯や鉄道などを積極的に描いた清親らしいところ思います。第一銀行は今年の大河ドラマのモデル・渋沢栄一創設。現みずほ銀行に合併する前の第一勧銀の前身です。

 

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小林清親(田口米治補筆) 「武蔵百景之内 両国花火」 明治17(1884)年

 

清親のそもそもの画業は浮世絵に倣った作品がスタートとのこと。その後、光線画を経て、また浮世絵へと戻っていきます。その時の拠り所が広重の名所絵。

この絵も近景の屋形船から空を見上げる婦人。川面に映る花火が涼し気です。

 

そして最後は

「4章 川瀬巴水 -大正・昭和の新版画 -」

から、こちらも2枚

 

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川瀬巴水 「旅みやげ 第二集 金沢下本多町」 大正10(1921)年

 

これを「金沢」と言われなければ、その場所は分からないでしょう。でも、旅先の金沢の路地できっとこの風景を発見したのでしょう。夏の空、降り注ぐ日差し、日傘と浴衣。強く印象に残る何気ないワンシーンを切り取った一枚。


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川瀬巴水 「旅みやげ 第三集 周防錦帯橋」 大正13(1924)年

 

  山口県岩国市にある日本三奇橋のひとつ。今から11年前(2010年)のGWに実際に行きました。中央は三連のアーチ、両端を含め五連の長い橋です。天気が良かったこともあり、清らかな水の流れと美しい橋は本当に印象深い風景でした。

そこから巴水はアーチのつなぎ目一つとそこから抜ける遠くの風景を切り取りました。この切り取り方、すこし広重に通じるような。(巴水先生に怒られるかも)

 

三人の眼から見える風景。

三つの時代を超えて、三人の個性を通じて、いろいろな風景に出会えたと思います。

一言で「風景」と言っても、同じではない。だから、面白い。

そして自分も風景を作るその一人。自分の中の「風景」と比べながら見るのが、楽しい見方の一つではないでしょうか。自分の中の「風景」が変わるかも、しれません。

 

  ということで、いろいろなところを旅して会場をあとにします。

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(会場出口の撮影スポット。川瀬巴水「東京十二ヵ月 麻布二の橋の午後」大正10(1921)年)

 

(3) ミュージアムショップ

ミュージアムショップがあります。図録を購入です。

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図録 2,400円

 

なお、こちらの美術館さんはミュージアムショップのほかに軽食・喫茶コーナーもあり、お食事もできます。

 

3. さいごに

今回の最後は同時開催の

ミニ企画展 浮世絵モダーン 橋口五葉と伊藤深水を中心に

の紹介です。こちらは無料で見ることができます。

 

川瀬巴水と同じく新版画の絵師であった橋口五葉と伊藤深水。そのほか版元・絵師・彫師・摺師が共同で作成した多色刷り木版画である新版画の作品を展示。ここでは撮影可能だった作品のなかから三点、紹介します。

 

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橋口五葉(ごよう) 「髪梳ける女」 1920年


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山村耕花(こうか) 「十三世守田勘彌のジャン・バルジャン」 1921年


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小早川清 「近代時世粧ノ内 瞳」1930年

 

近代の版画もとても面白い作品が多くあります。これからも版画、見に来たいと思います。

 本展は8/12(木)から後期も開始。まったく新しい展覧会になっているようですので、とても興味深いでず。機会があれば見に行きたいところです。

 

  とういことで、関連リンクです。

 

日本の「映える」風景画です。

www.suki-kore.tokyo

フランスの風景画のはじまりです。

www.suki-kore.tokyo

東海道五十三次一気見なら

www.yamatane-museum.jp8/29(日)まで。

 

秋の川瀬巴水展です。

www.sompo-museum.org10/2(土)から。

 

8月の展覧会情報です。

www.yorocon46.com 

   今回のレポートは以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

また、次のレポートもよろしくお願いいたします。

 

※ ご意見、ご感想、大歓迎です。是非コメントかメール(yorocon46@gmail.com)まで。ツィッターは@yorocon46です。


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(この犬、どこにいたかなぁ?)