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【展覧会】 ピーター・ドイグ展@竹橋・東京国立近代美術館のレポート(2020/8/1訪問)

自称アート・リポーターこと、よろコンです。

 

本ブログでは過去に見た展覧会も含め、好きな展覧会をレポートしていきます。

 

今回は、こちら

 

ピーター・ドイグ展 @ 竹橋・国立近代美術館

 

のレポートです。

 

「画家の中の画家」と評されるピーター・ドイグ。ロンドンのテート美術館、パリ市立近代美術館、ウィーン分離派会館と世界の名だたる美術館で個展を開催。世界で最も重要なアーティストの一人と言われる画家の日本初個展です。

今回も、最後まで、お読みいただけますと幸いです。

 

【目次】

 

※ 以下の記述は展覧会の解説、パンフレット、その他WEB上の資料を参照の上、記述しております。なお、今回の会場内は全作品撮影可能でした。

 

1. 展覧会概要

(1) どんな展覧会か

ピーター・ドイグは1959年、スコットランドのエジンバラ生まれ。幼少期にトリニダード・トバコ、カナダで育ちます。その後、ロンドンに戻り、1990年にチェルシー・カレッジ・アート・アンド・デザインで修士号取得。1994年にターナー賞にノミネートされることにより注目を集めます。(ターナー賞は美術館・テートが組織する賞で、顕著な活躍をしている50歳以下のイギリス人またはイギリス在住の美術家4名をノミネートし、ターナー賞展を開催。開催中に受賞者の発表されるとのこと。なお1994年の受賞者は彫刻家アントニー・ゴームリー。賞の名前はあの「ターナー」が由来。Wikipedia調べ)

 

「ゴーギャン、ゴッホ、マティス、ムンクといった近代画家の作品の構図やモチーフ、映画のワンシーンや広告、彼が過ごしたカナダやトリニダード・トバゴの風景など、多様なイメージを組み合わせて絵画を制作」してきたピーター・ドイクの作品は「ロマンティックかつミステリアスな風景」で「不思議と魅せられる」、それは「誰もがどこかでみたことのあるイメージを用いながらも、見たことのない世界を見せてくれるから」なのでしょう。(「」内はパンフレットからの引用)

 

私は、今回の展覧会で初めて知りました。どんな作品か、興味津々です。

さて、それではさっそくピーター・ドイグの世界をのぞいてみましょう。

 

(2) 開催概要

 ・期間:2020/2/26(水)(2/29~6/11休館、6/12再開) - 10/11(日) ※ 会期延長。

 ・時間:10:00 - 17:00 ※ 入館は閉館30分前まで。時間指定制

     ※ 8/1以降、金曜・土曜はナイトミュージアムで20:00まで。

         (ただし、予定は行く前に必ず美術館サイトでご確認ください)

 ・会場:東京国立近代美術館(竹橋) ※ 東京メトロ東西線・竹橋駅1b出口から3分

 ・チケット:一般 1700円、大学生 1100円、高校生 600円

    ※ 常設展も鑑賞できます。

    ※ 8/1~8/30(日)は大学・高校生は入場無料

       (その他各種割引は美術館サイトをご確認ください)

    ※ チケットは時間指定制ですが、空きがあれば美術館でも購入可能です。

 ・作品数:72点

 ・写真撮影:OKです。

 ・Webサイト:

(展覧会サイト)

peterdoig-2020.jp

(美術館サイト)

ピーター・ドイグ展 | 東京国立近代美術館


(美術館・外観)

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(3) パンフレット

(表面)

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(見開き・左面)
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(見開き・右面)

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(裏面)
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(4) 行くきっかけ

「日経おとなのOFF」2020年1月号(臨時増刊)の付録の「2020美術展100ハンドブック」を見て、パンフレット表面の石垣のカラフルな色が気になりました。私自身は、この時、初めてピーター・ドイグを知りました。見に行く候補に入れました。その後、NHK・Eテレの日曜美術館でも放送されているのを見て、やっぱり見に行くこう!と決定しました。

 

2. 展覧会の中へ

(1) 訪問日・混雑状況

訪問日:2020/8/1(土) 晴れ。15:45頃(訪問時は雲が多かったですが)。溜池山王のサントリーホールで日フィルの「運命」の演奏会を聴いて、こちらを訪問しました。

鑑賞時間:約60分。この後、常設展も60分くらい鑑賞して、美術館を出たのは18:00前でした。ナイトミュージアムを利用して鑑賞してきました。

混雑状況:人はいましたが、混んではいません。三密を避けて、ゆっくり見ることができると思います。

 

なお、美術館に入るときはマスク着用、検温、手の消毒チェックがあります。

 

では展覧会場に入ります。

 

(2) 展覧会の構成

ピーター・ドイグの活動拠点や作品テーマなどから次の構成となっています。

 

第1章 森の奥へ 1986年~2002年

第2章 海辺で 2002年~

第3章 スタジオの中で-コミュニティとしてのスタジオフィルムクラブ 2003年~

 

第1章は、1992年にイギリスの美術雑誌「フリーズ」で作品が取り上げられ、1994年にはターナー賞にノミネートされ、ロンドンのアートシーンで注目を浴び始めたころの作品。YBAs(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)の大型で派手なインスタレーションが注目を浴びる中、絵画という時代遅れとみられたメディアにおいて歴史と視覚文化に向き合い、まだ見ぬ光景を作り上げる真摯な姿が極めて新鮮なものとして評価されたとのこと。

 

第2章は、2002年に活動拠点をロンドンからトリニダード・トバゴの首都、ポート・オブ・スペインに移したのちの作品。作品も海辺の作品が多くなり、油絵具も厚塗りからキャンパス地が分かるほどの薄塗りに変化していきます。

 

第3章は、ドイグがトリニダード・トバゴ出身の友人のアーティスト、チェ・ラブレスと始めた映画の上映会「スタジオ・フィルム・クラブ」の宣伝のため、描かれたドローイングのポスターから。ドイグのスタジオで開催された上映会は無料で、上映会の後は作品について話したり、音楽会になったりと、一種文化的なサロンのような役割を果たしていたとか。ドイグの映画への理解もわかる作品群です。

 

(以上、会場・Web解説参照)

 

それでは、作品を見て行きましょう。

 

(3) 気になる作品

まずは、第1章「森の奥へ」から。

ドイグが育った、カナダを思わせる作品が多く集まります。

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(会場の様子)


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「天の川」(1989-90 油彩、キャンバス)

 

画面上が現実世界、画面下が水面に映る世界。でも、現実世界と水面に投影された世界は必ずしも一致せず、むしろ水面に映る世界の方が色鮮やかで現実的。水に浮かぶ小舟が重石となって、かろうじて世界の上下が維持されています。

ベックリンの「死の島」にも通じる作品とか。

 

  ドイグは小舟(カヌー)をモチーフにした作品を残していますが、これは映画「13日の金曜日」(1980年)の最後のシーンに由来しているとのこと。

(「13日の金曜日」見たことないです・・・というか怖くて、一生見ません(^^;))


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「ブロッター」(1993 油彩、キャンバス)

 

ブロッター(Blotter)は万年筆や押印時の余分なインクを吸収性の良い紙などを当てて吸い取る文房具、吸取器のこと。中央にいる人物は何かを吸い取っているのか、吸い取られているのか。人物の周りの波紋が水が凍っていないことを意味し、浅瀬を歩いているのか、氷から水が染み出ているのか、どことなく漂う不安の中、いろいろな想像が掻き立てられます。


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「スキージャケット」(1994 油彩、キャンバス)

 

トロントの新聞に掲載された日本のスキーリゾートの写真を参照しながら描いた作品。元の写真は白黒、縦長だったところ、描いていくうちに左右のパネルに広がったとのこと。実際の写真を見ながら描かれた想像世界。

白い絵の具の塊が、ブリューゲル(父)の絵画と同じように絵自体に雪が降り積もるように見える効果を出しているとのこと。いかがですか?

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さて、これから紹介する作品は左右に並んで展示されています。

まずは、左の作品

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「エコー湖」(1998 油彩、キャンバス)

 

湖畔に警察の車が止まり、誰かがこちらを見ています。よく見ると・・・


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頭を抱えている?耳をふさいでいる?どことなく、ムンクの「叫び」のような・・・

 

その先にある光景は、これでしょうか?

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「カヌー=湖」(1997-98 油彩、キャンバス)

 

カヌー=13日の金曜日のラスト?(すみません。見ていないので・・・)

ちなみに、こちらの絵の方が先に描かれています。

どちらも、静かな自然の中、大きな不安に包まれる感じがします。

 

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「若い豆農家」(1991 油彩、キャンバス)

 

手前の枝木の向こうに広がる畑と農夫。農夫の姿は、ゴッホの種をまく人を髣髴とさせる感じがします。

 

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「コンクリート・キャビンII」(1992 油彩、キャンバス)

 

奥の白い建物はフランス北西部、ブリエ=アン=フォレにル・コルビュジェが建てたユニテ・ダビタシオンという集合住宅。直線的で白の基調にカラフルな色が点在する近代的建物を鬱蒼とした原始林を思わせるような林からのぞき込むような構図。画面の奥行きの中に光と影が存在する、なにか象徴的な作品です。今回の展覧会では、いちばん好きな作品でした。


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「ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ」(2000-02 油彩、キャンバス)


ドイツのダム湖の白黒写真を参照しながら描かれた作品。

登場する人物の左は作者自身、右は作者が学生時代に英国国立歌劇場の衣装係の時に撮影した写真に由来。それぞれ異なる時代、場所の光景を一体化させ創造された世界。

ダムの奥の入り江の広がり、右に大きく湾曲する道がこの絵画の世界に広がりを与えています。


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(左がドイグ?!)

 

 

続いて、第2章「海辺で」から。

トリニダード・トバゴに移ってからの作品です。

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(会場の様子)


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「ピンポン」(2006-08 油彩、キャンバス)

 

まず、目に留まったのはこちらの作品。背景に積まれたのはビール・ケース。壁の模様・パネルともとれるくらいに抽象化され装飾的です。さらにピンポン台の白い直線が抽象化された世界を際立たせます。ピンポンの相手をしている人が見えない(または一人?)というところも、絵の空間に広がりを持たせています。ピンポンをしている人の表情は結構、真剣に見えますが・・・


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「ラペイルーズの壁」(2004 油彩、キャンバス)

 

トリニダード・トバゴは首都ポート・オブ・スペインの墓地の壁沿いを歩く男性。その表情をうかがうことはできません。この作品はドイグが撮影した写真をもとに描かれていますが、さらに小津安二郎の「東京物語」の静けさを念頭に描かれているとのこと。


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「無題(肖像)」(2015 油彩、麻)

 

こちらは、あまり大きくない作品です。少しゴーギャンを思わせるように感じました。こちらも好きな作品でした。


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「ポート・オブ・スペインの雨(ホワイトオーク)」(2015 水性塗料、麻)

 

黄色の壁に緑の扉。こちらはイギリス植民地時代にポート・オブ・スペインの中心に建てられた監獄。そして、ライオンはアフリカを出自に持つ人の地位向上を目指すラスタファリ運動の象徴「ユダの獅子」のイメージとか。ジャマイカ発祥でカリブ海諸国に広がったこの運動。抑圧の歴史からの自由の象徴を描いたものなのでしょうか?


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「壁画家のための絵画(プロスペリティ・ポート・オブ・スペイン)」(2010-12 水性塗料、麻)

 

  様々な旗に獅子のマークも。ポート・オブ・スペインの「繁栄」をあらわした姿なのでしょうか。左はラスタファリ運動の旗が左右反転しているようにも。

 

 

ラストは、第3章「スタジオフィルムクラブ」から。

毎週、自分のスタジオに人を集めて映画会。それに自分でポスターまで描いてしまうとは、なんだかうらやましいような世界です。全72展示作品のうち40作品がこちらのポスターです。

 

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(会場の様子から)

 

ここでは、3点ほど。

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「気狂いピエロ」(2004 油彩、紙)

 

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「熱いトタン屋根の猫」(2011 油彩、紙)

 

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「座頭市」(2004 油彩、紙)

 

  3枚目は北野武監督、"金髪"の座頭市でしょう。北野作品ではこのほかにHANABIのポスターもありました。ドイグの映画への理解もわかるポスター群でした。

 

  第1章、第2章の大きな作品、第3章の映画ポスターと、様々な作品をとおしてピーター・ドイグのこれまでの作品の流れが一望できる展覧会だと思います。

 

  そして、展覧会場を後にします。

  

(4) ミュージアムショップ

  展覧会場出口に特設ショップがあります。図録や絵ハガキ、クリアファイル、ノートなど各種グッズが販売されています。東京国立近代美術館さんには併設するミュージアムショップもありますが、こちらではピーター・ドイグ展の品は置いてなさそうなので、会場出口の特設ショップで関連グッズはお買い求めください。


3. さいごに

展覧会場で撮影した写真を中心にご紹介してきましたが、専用サイトでも3DVRで会場内の作品を鑑賞することができます。ただ、特に第1章、第2章の作品は大きな作品ばかりです。せっかくであれば、会場で生の作品を鑑賞されたほうが、より面白さをかんじられると思います。懐かしくも新しい、落ち着きながら、どこか不安、現代アートの最前線の世界を是非、その目で確かめてください。

 

それでは、関連リンクです。

チケットのコラボがあります。今東京で見られる現代アートの世界。

www.suki-kore.tokyo

  暑い日が続きますが、熱中症にもCOVID-19にも最新の注意をして、また、展覧会を楽しみたいと思います。

 

  今回のレポートは以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

また、次のレポートもよろしくお願いいたします。

 

※ ご意見、ご感想、大歓迎です。是非コメントかメール(yorocon46@gmail.com)まで。ツィッターは@yorocon46です。


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(美術館4F休憩室「眺めのよい部屋」からの光景、大手町方面を望む)