よろコンです。
本ブログでは見て来た展覧会の個人的な感想を書いています。
今回は、2024年2月11日(日)に見て来た展覧会
サムライ、浮世絵師になる!鳥文斎栄之展
@千葉・千葉市美術館
です。
「ちょうぶんさい・えいし」と読みます。
歌麿、北斎、広重、写楽に国芳
数多のスター絵師がいる中で、あまり聞いたことがない名前かもしれません。個人的には好きな浮世絵師No1、2といった存在。サムライから絵師という異色の経歴。数多くの作品が海外流出。実はすごい絵師・栄之の"世界初"大回顧展。同時開催「武士と絵画」およびコレクション展の作品の一部もあわせてご紹介します。
今回も最後までお読みいただけますと幸いです。
【目次】
※ 以下の記述は展覧会の解説、パンフ、図録、その他WEB上の資料等を参照の上、記述しております。また、撮影可能な作品について展覧会で撮影した写真を掲載しています。
1. 展覧会情報
(1) 開催概要
・会場:千葉市美術館@千葉
・期間:開催中(2024/1/6(土)) - 2024/3/3(日)
※ 展示替えあり・前期1/6 - 2/4(終了)、後期2/6-3/3
・時間:10:00~18:00(入館は閉館30分前まで)
※ ナイトミュージアム:金曜・土曜日は20:00まで。
・休館日:1/9、1/15、2/5、2/13 ※ 第1月曜日は全館休館日
・チケット:一般 1,200円、大学生800円、小・中学生・高校生無料
※ ごひいき割:本展チケット半券提示で2割引き
ナイトミュージアム割:金・土曜の18:00以降は観覧料半額
・作品数:前期・後期合わせ160点、現在は約110点
・写真撮影:写真可能のマークがある作品(数点)のみOK(ほぼNG)
・関連リンク:
1) 展覧会
※ 同時開催「武士と絵画」
2) 美術館
(美術館エレベータのドア)
(2) 訪問日・混雑状況
訪問日:2024/2/11(日) 15:30頃訪問
鑑賞時間:約120分(栄之展+武士と絵画で90分、コレクション展30分くらい)
混雑状況:お客さんは多かったですが、混んではいません。ゆっくり見られました。
(3) どんな展覧会?
鳥文斎栄之(1756-1829)
禄高500石、旗本細田家の長男。祖父は勘定奉行。自分も絵を好んだ将軍家治の絵具方として勤め、「栄之」の号も「上意に依る」ものとか。御用絵師の狩野栄川院典信(みちのぶ)に絵を学びます。
時は老中・田沼意次の頃、浮世絵全盛の天明~寛政期。意次の失脚という時代の変わり目に、浮世絵師として本格的に活動開始。武士の身分を離れます。楚々とした長身の美人画で歌麿と拮抗する存在に。しかしながら、二人の歩みは違ったものに
明治以降、多くの作品が海外に流出したため他の絵師に比べ、少し影が薄く感じますが、今回はボストン美術館、大英博物館から作品が里帰り。栄之の画業をたどり魅力に迫る展覧会でした。
なお、8階→7階と展示会場がありますが、7階展示会場の後半は「武士と絵画 -宮本武蔵から渡辺崋山、浦上玉堂まで-」です。(同一チケットで鑑賞できます)
2. 会場へ
(1) 構成
プロローグ 将軍の絵具方から浮世絵師
第1章 華々しいデビュー隅田川の絵師誕生
第2章 歌麿に拮抗-もう一人の青楼画家
第3章 色彩の雅-紅嫌い
第4章 栄之ならではの世界
第5章 門人たちの活躍
第6章 栄之をめぐる文化人
第7章 美の極み-肉筆浮世絵
エピローグ 外国人から愛された栄之
(2) 気になる作品
ここでは会場で撮影OKだった3作品を紹介します。
いずれもボストン美術館からの里帰りの作品です。
「第1章 華々しいデビュー隅田川の絵師誕生」から
鳥文斎栄之「川一丸舟遊び」(かわいちまるふなあそび)寛政8-9年(1796-97年)
同時代に活躍した喜多川歌麿(?-1806年)も葛飾北斎(1760-1849)もデビュー当初は細版で画面が小さく賞味期限も短い役者絵からスタート。
一方、栄之はいきなりの浮世絵界初であろう大判錦絵五枚続の作品を次々と制作。武家出身ということから絵師としても恵まれたスタートを切っています。
大判錦絵五枚続は高価なので、大衆相手というより、裕福な富裕層をターゲットに売り出されたものと想像されます。これも武士という出自を「売り」にした"戦略"なのでしょう。
それでは右から一枚一枚見て行きます。
長身で楚々とした女性たちの立ち姿に、どことなく品を感じます。
この頃の美人画の雄、喜多川歌麿と比較してみると
・版元
栄之=老舗の版元・西村屋与八からの出版が多い
歌麿=もとは吉原の本屋で新興の蔦屋重三郎が見出し育てる
・画風
栄之=立ち姿や座り姿の全身像が多い
歌麿=美人画初の大首絵で一世を風靡
当時、流行った大首絵を栄之が描いたのは蔦屋が亡くなった頃とのこと。歌麿とはすみ分けがあったようです。
さらに、当時の浮世絵の華やかさ・鮮やかさを彩った色は「紅」の赤。
一方で、この赤を敢えて使わない「紅嫌い」(赤に替わって紫を使うため「紫絵」とも言う)で古典主題を描いた栄之。
実際の作品を見て見ると派手な浮世絵に比べ、かなり色が抑えられた世界。その落ち着いた色遣いから優雅な世界が広がります。富裕層を相手にした栄之ならではの作品でした。
「第5章 門人たちの活躍」では
鳥文斎栄昌「郭中美人競 大文字屋内 本津枝」(かくちゅうびじんくらべ だいもんじやうち もとつえ) 寛政9年(1797年頃)
ネコがかんざしにじゃれています。
栄之の門人、栄昌(えいしょう)の作品。
この絵、きれいな状態で残された世界で一点物の作品とか。ネコと笑顔が作品に明るい魅力を添えています。
栄之とは逆に栄昌は大首絵を描いています。栄之とは版元も違いますので、やはりすみ分けがあるようです。
その後、寛政の改革からの出版規制もあり、寛政10年頃から栄之は錦絵出版から肉筆画に集中します。武家出身の栄之は歌麿のような反抗的態度は取れず、肉筆画へと移行していったのでしょう。栄之の肉筆画も美しく、上流階級に好まれたようです。
そして「エピローグ」に展示されていますが、さきほどの
「第1章 華々しいデビュー隅田川の絵師誕生」
の一枚
鳥文斎栄之「新大橋橋下の涼み船」寛政2年(1790年)頃
やはり大判錦絵五枚続。
こちらも一枚一枚見ていきます。
何艘もの舟で盛り上がっています。主役はすべて女性たち
穏やかで華やかで楽しそうです。
鳥文斎栄之
これまで、一堂に集結した作品を見ることはなかったのですが、展覧会での作品を通じて栄之の個性があらためて伝わってきたように思います。これからもこのような展覧会で栄之の作品に出会えることを期待しています。
さて、ここからは同時開催「武士と絵画」から
宮本武蔵や浦上玉堂、そして江戸琳派・酒井抱一らの作品が並ぶ中から撮影可能でした
渡辺崋山「佐藤一斎像画稿 第三~第七」
をご紹介します。
渡辺崋山は(私の頃は)教科書にも出てくる蛮社の獄(1839年 鎖国政策を批判した者に対する江戸幕府の言論弾圧事件)で切腹した三河田原藩の武士。佐藤一斎は渡辺崋山の儒学の師とのことです。
完成図はこのようになります。
これを描くに至るまでの画稿です。
左から
第三、第四
第五
第六、第七
試行錯誤のあと、作品の写実性がうかがえます。
さらに5階の「コレクション展」から今回の鳥文斎栄之に関係する浮世絵を
鳥居清長「美南見十二候六月(茶屋の遊宴)」天明4年(1784年)頃
栄之にも多大な影響を与えた浮世絵師
最後はライバル喜多川歌麿の2作品
喜多川歌麿「鞠と扇を持つ美人」寛政9年(1797年)頃
喜多川歌麿「見立邯鄲」寛政7-8年(1795-96年)頃
いかがでしたでしょうか?
鳥文斎栄之の作品から同時代の武士・絵師の作品も見て来ました。
海外に作品が流れたため、今、忘れられた画家は他にもいます。今後も、このような展覧会でよりよく知る機会をいただけたらと思いました。
この日は図録を買って、美術館を後にしました。
3. さいごに
鳥文斎栄之は武士出身という異色の絵師です。そして恵まれていた絵師です。
一方で歌麿のような絵師とは上手くすみ分けられていて、作品の購買層のターゲットも違う。画力に加え、その人の持つ出自なども含めた「個性」を最大限に生かした販売「戦略」がその人の作風をも決めている。江戸の浮世絵業界(?!)というか出版業界のしたたかさに驚かされます。江戸の人、たくましい。
【巡回情報】
-
ということで関連リンクです。
栄之の師匠・狩野典信の作品も一枚あります。是非、探してみてください。
2024年の展覧会情報はこちら
ということで、今回は以上です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
また、次もよろしくお願いいたします。
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(珍しい美術館併設の居酒屋さん。飲みながらのアート談義、良いですよねぇ)